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食生活を社会的に考える その2
イヌイットの心筋梗塞が少ない理由

2009/03/21

 2008年8月19日の本ブログ「食生活を社会的に考える」で、肥満は5歳前後の小児期から進行しており、学校給食を含めて、社会全体で対策を考える必要性を述べました。今回は、最近、動脈硬化抑制作用が注目されているイコサペンタエン酸(EPA)について述べたいと思います。


 不飽和脂肪酸は食物中から摂取する栄養素で、代表的なものにはn-6系不飽和脂肪酸のリノール酸、アラキドン酸と、n-3系不飽和脂肪酸のαリノレン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、EPAなどがあります。

 まず最初に、少し本題からはそれるのですが、脂肪酸について間違った考え方が一般に浸透してしまっていることについて触れておきます。それはベニバナ油(サフラワー油)、コーン油、ヒマワリ油は「リノール酸を多く含むので、体に良い」という考えです。

 確かにリノール酸はn-6系の必須不飽和脂肪酸であり生体に必要ですが、明らかな抗動脈硬化作用は確認されてはいません。従って後述するEPAのように多く摂取すればいいというわけではありません。厚生労働省から出されている「日本人の食事摂取基準2005」では、n-6系不飽和脂肪酸摂取の上限が設定されています。

 もう1つ、目に付く間違いは、マーガリン、ショートニングは体に良いという考えです。植物油を保存、運搬しやすいように固形に加工する工程で、自然界には存在しない「トランス脂肪酸」ができてしまいます。トランス脂肪酸を低減する工程を入れないと、マーガリン、ショートニングなどにはトランス脂肪酸が数%~十数%程度含まれるといわれます。近年、トランス脂肪酸が動脈硬化促進と密接に関連することが分かり、米国ニューヨーク市では2006年12月から、トランス脂肪酸の含有量に関する条例が出され、摂取が行政的に規制されています。

 さて、本題に戻りますが、体に良い作用を持つことが、科学的に明らかにされてきたのがn-3系不飽和脂肪酸であるEPA、DHAというわけです。

 注目されるようになったきっかけは、グリーンランドイヌイットは総カロリーの4割をアザラシなどの動物性脂肪から摂取しているにもかかわらず、心筋梗塞の発症が極端に少ないという報告でした。

 n-3系不飽和脂肪酸は主に魚に含まれています。主に魚を食べるアザラシの動物性脂質にも、魚由来のn-3系不飽和脂肪酸が多く含まれています。つまりグリーンランドイヌイットの食事に多く含まれるEPA、DHAには、抗動脈硬化作用があるのではないかと、疫学的に注目されたのです。

 この報告に端を発して、多くの研究が行われました。国内では意外と知られていないことですが、海外ではEPA、DHA、それらが含まれる魚油は、とても関心が高い研究テーマです。PubMedで「fish oil」を検索すると、「statin」に迫る数の論文がヒットします。(2009年2月27日時点で、「fish oil」 1万4928件、「statin」 1万9898件)

著者プロフィール

佐藤幸人(兵庫県立尼崎病院循環器部長)さとうゆきひと氏。 1987年京大卒。同大循環器内科入局、94年に京大大学院修了。同科病棟医長を経て、2004年から兵庫県立尼崎病院循環器内科に勤務。 07年より同科部長。研究テーマは心不全のバイオマーカーなど。

連載の紹介

佐藤幸人の「現場に活かす臨床研究」
専門の心不全だけでなく、臨床全般に興味がある。過疎地の病院での臨床経験もある。そんな佐藤氏の持論は、「医療とは患者、家族、医師、パラメディカル、メディア、企業などが皆で構成する『社会システム』だ」。最新の論文や学会報告を解説しつつ、臨床現場でそれらをどう活かすかを考える。

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