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OPTIMIZE-HF、ADHERE研究で知られるMihai Gheorghiade、Peter S Pang氏らが執筆
急性心不全の最新事情のレビューに格好の総説が出ました

2009/03/11

[3/19追記:総説の著者としてセカンドオーサー名を加えました]

 わが国をはじめ、先進国では急速に高齢化が進んでいます。したがって心不全の患者は、今後ますます増加していくと考えられます。

 急性心不全は慢性心不全と比較するとエビデンスが非常に少なく経験的な領域ですが、最近、米Northwestern Universityの Mihai Gheorghiade先生、Peter S Pang先生らが書かれた総論が、The Journal of the American College of Cardiology(JACC)に発表されました1)

 Gheorghiade先生、Pang先生はADHERE (Acute Decompensated Heart Failure National Registry)レジストリー、OPTIMIZE-HF (Organized Program To Initiate life-saving treatMent In hospitaliZEd patients with. Heart Failure)レジストリー、さらにESC( European Society of Cardiology )の「慢性、急性心不全ガイドライン」などでもおなじみの方です。今回はこの論文に沿って、現在、急性心不全について分かっていることをおさらいしてみたいと思います。

疫学:25%は収縮圧160mmHg以上、低血圧は10%以下

 まずは欧米の心不全患者の、疫学的なデータです。約80%は慢性心不全の悪化であり、残りの20%が新規発症の急性心不全といわれています。平均年齢は75歳前後と高齢で、半数は女性です。入院時には血圧がやや高いことが多く、25%が収縮期血圧が160mmHg以上、低血圧状態は10%以下です。

 冠動脈疾患の既往は60%に認められました。さらに高血圧は70%、糖尿病40%、心房細動30%、中等度以上の腎不全は20~30%と高率に合併症を認めます。また約半数の患者では、収縮能が保持されています。入院期間は欧米では6日以内、中央値は4日と極端に短いのですが、院内死亡率は2~4%、60~90日死亡率は5~15%と高率です。

病態生理:臓器うっ血症状が特徴

 血行動態的には左室拡張期圧の上昇により、肺うっ血などの臓器うっ血症状を認め、心拍出量の減少をしばしば伴います。左室拡張終期圧の上昇は神経体液因子を活性化させ、心内膜下の虚血を誘発し、心不全症状をいっそう悪化させます。体重増加はしばしば、急性心不全の発症数日前から認められますが、急性心不全の治療効果と体重の減少は、必ずしも一致しないことが分かっています。

 心筋障害の観点からの話題としては、心筋トロポニン値が急性心筋梗塞を除外した急性心不全でも微量に上昇しており、予後予測因子であることが指摘されています。心筋障害の原因としては心内膜下虚血、神経体液因子の活性化のほか、急性期治療として使用される点滴強心薬が心筋障害を惹起する可能性も推測されています。しかしこれは今後の検討課題であり、まだ証明されているわけではありません。

 心腎症候群についても今後の検討課題です。腎機能の悪化機序は、(1)糖尿病、高血圧、動脈硬化といった基礎疾患により腎臓が障害される、(2)心拍出量の低下と腎うっ血により血行動態的に悪化する、(3)利尿薬、ACE阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)などの治療薬により悪化する――などが考えられています。急性心不全患者において、腎機能は予後予測因子ではありますが、急性心不全の治療経過中に腎機能が悪化する現象は、予後不良因子であるとの報告と、そうでないとする報告が混在しています。

予後予測因子:血圧、冠動脈疾患の合併、心室壁運動の非同期…

臨床的な予後予測因子として報告されているものを列挙します。まず、観察開始時の収縮期血圧値は、関連の強い予後予測因子で、血圧が高いほど予後は良好です。末期心不全患者では収縮期血圧値が低くなることが、その原因と思われます。

 冠動脈疾患の合併は予後不良因子です。明らかな虚血を誘発する冠動脈病変は治療すべきです。心室壁運動の非同期も予後不良因子であり、慢性期には再同期療法の適応だと考えられます。低腎機能ももちろん予後不良因子で、低ナトリウム血症も予後不良因子です。ほかの生化学指標として血中BNP、NT-proBNP、心筋トロポニン高値も予後不良因子です。

著者プロフィール

佐藤幸人(兵庫県立尼崎病院循環器部長)さとうゆきひと氏。 1987年京大卒。同大循環器内科入局、94年に京大大学院修了。同科病棟医長を経て、2004年から兵庫県立尼崎病院循環器内科に勤務。 07年より同科部長。研究テーマは心不全のバイオマーカーなど。

連載の紹介

佐藤幸人の「現場に活かす臨床研究」
専門の心不全だけでなく、臨床全般に興味がある。過疎地の病院での臨床経験もある。そんな佐藤氏の持論は、「医療とは患者、家族、医師、パラメディカル、メディア、企業などが皆で構成する『社会システム』だ」。最新の論文や学会報告を解説しつつ、臨床現場でそれらをどう活かすかを考える。

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