日経メディカルのロゴ画像

急性心不全治療における硝酸薬、強心薬の意義を再考する
血行動態の改善なくして、臓器保護の効果なし

2009/01/01
小田修司

 急性心不全の領域は慢性心不全に比べると非常にエビデンスに乏しく、理論構築も途中の段階です。急性心不全についてコメントする際、まずは体系的に疫学、病態生理学、診断学、治療学と全体像を把握してからとは思いますが、現実にはいずれの領域も知見はまばらにしか得られておらず、ジグソーパズルに例えると手元にピースが、まだ数個しかないといった状況です。

 さらに、救急疾患である急性心不全を取り扱う医療システム自体が、疾患像をいっそう複雑にしているといった事情もあります。それは急性心不全患者を初診患者として診るのが、循環器専門医である場合もあるし、非専門医である場合もあるからです。迅速な診断が行われず治療開始が数時間遅れると、それがダイレクトに予後に影響するかもしれません。

 研究が進んでいる高血圧領域では、「ARBの臓器保護効果を期待する以前に、降圧が最も大事」といった事象も明らかになってきていますが、急性心不全治療の領域ではどこまで具体的に分かってきているのでしょうか。今回は急性心不全治療について、最近は日本でやや軽視されている?硝酸薬と強心薬に焦点を当てて考えてみたいと思います。

ガイドラインでの硝酸薬、強心薬の位置付けは?
 急性心不全のガイドラインで最もエビデンスが豊富で新しいのは「欧州心臓学会(ESC)急性、慢性心不全の診断と治療ガイドライン2008」1)です。本ガイドラインの特徴は、急性心不全の多くは慢性心不全が悪化する過程で生じるため、急性心不全と慢性心不全を同一線上で論じていることです。

 その中で、血管拡張薬は収縮期血圧が110mmHg以上ある場合に推奨されるとあり、90-110mmHgではかなり慎重に投与すべきとなっています。特記すべきことは、収縮期血圧90mmHg以下では血管拡張薬は臓器還流を低下させ、腎機能を悪化させるため使用すべきでないと明言した点です。

 ニトログリセリン、硝酸イソソルビドともにclass I、エビデンスレベルBです。硝酸薬使用でしばしば問題となる薬剤耐性については、平均在院日数が5~6日という欧米の状況をみますと、ほとんどの症例で耐性が生じる前に勝負がついていることが想像できます。

著者プロフィール

佐藤幸人(兵庫県立尼崎病院循環器部長)さとうゆきひと氏。 1987年京大卒。同大循環器内科入局、94年に京大大学院修了。同科病棟医長を経て、2004年から兵庫県立尼崎病院循環器内科に勤務。 07年より同科部長。研究テーマは心不全のバイオマーカーなど。

連載の紹介

佐藤幸人の「現場に活かす臨床研究」
専門の心不全だけでなく、臨床全般に興味がある。過疎地の病院での臨床経験もある。そんな佐藤氏の持論は、「医療とは患者、家族、医師、パラメディカル、メディア、企業などが皆で構成する『社会システム』だ」。最新の論文や学会報告を解説しつつ、臨床現場でそれらをどう活かすかを考える。

この記事を読んでいる人におすすめ