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心臓のエイジングに総心拍数が関係?

2017/06/02

 WHOから毎年、世界保健統計が発表されています。2016年の統計では、日本の平均寿命は男性が世界5位、女性が世界1位、総合世界1位(83.7歳)となっています。幸い健康寿命も74.9歳で、こちらも世界1位なのですが、平均寿命と健康寿命を見比べると、75歳から85歳の約10年間は平均的に不健康寿命を送っていることになります。このように超高齢化社会を迎えた我が国では、加齢研究やライフコース研究に大きな研究費がつぎ込まれています。そこで、心臓の加齢で何か新しい研究テーマはないのか考えてみました。

 加齢、あるいは加齢研究というと、キーワードになるのが「テロメアtelomere)」と「サーチュインsirtuin)」ではないでしょうか? 

 まずテロメアから説明します。テロメアとは、真核細胞の染色体の末端にあるTTAGGGという6塩基が繰り返された配列のことです。DNAの複製の性質から細胞が分裂するごとにテロメアが切断されて染色体が少しずつ短くなっていきます。これには岡崎フラグメント(日本人の名前がついているのでなんとなく名前だけは覚えているのではないでしょうか?)などが関与するDNAの複製様式が関係しますが、詳細になりすぎるのでここでは説明を省略します。興味がある人は自分で調べてみてください。

 細胞分裂とともに染色体がどんどん短くなってしまいますが、そうならないことが長年の謎とされていました。DNAのダブルヘリックスの発見でノーベル生理学・医学賞を受賞したジェームズ・ワトソン博士は1973年に、「末端複製問題」と呼び「自分にはそのバイタリティはもうないので、誰かこの疑問を解いてください」と呼びかけました。これに応え、1978年にエリザベス・H・ブラックバーンらが「末端複製問題」を明らかにしました。

 ブラックバーンらも、テロメア研究で2009年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。短縮した染色体はテロメラーゼという酵素で回復しますが、それ以上に切断されるので、細胞は限られた回数しか分裂することができません。一時話題になった「クローン羊ドリー」を覚えている方も多いと思います。あのドリーが短命だったのは、テロメアがもともと短かったからだとされています。

 もう1つのキーワード「サーチュイン」は、最近では長寿遺伝子としてテレビの健康番組や科学番組でもしばしば取り上げられているので、聞いたことがある人も多いのではないでしょうか? サーチュインはレオナルド・ガレンツ博士が2003年に発見した遺伝子で、サーチュイン遺伝子を導入するとショウジョウバエで約30%、線虫で約50%寿命が延びます。サーチュインはテロメラーゼを活性化するので、テロメアの短縮を軽減することで長寿をもたらすと考えられています。

 サーチュイン遺伝子は通常、不活性化されており、これをオンにするシグナルの研究も数多くなされています。その1つがカロリー制限です。昔の人は「腹八分目」などと言い、過食は良くないことと考えていました。これもサーチュインに関係するのかもしれません。もう1つが赤ワインに含まれるポリフェノールの1種「レスベラトロール」です。やっぱり加齢と食は密接な関係があるのですね。

 ところで、心臓と加齢の関係では心拍数と寿命に相関があることが有名です。1992年出版され「ゾウの時間ネズミの時間」(本川達雄著)という本がベストセラーとなったのでご存知の方もいるかと思います。脈の速い動物は短命で、脈の遅い動物は長寿です。例えば、心拍数が30拍/分のゾウは寿命が80~100年です。心拍数が600拍/分のネズミは寿命が2~3年です。

 図1は様々な動物の寿命を縦軸、総心拍数/寿命を横軸にとったもので、ほとんどの生物で総心拍数/寿命は108(1億)~109(10億)の範囲に来ており、生物の総心拍数は約20~25億とされています。

著者プロフィール

古川哲史(東京医科歯科大学難治疾患研究所生体情報薬理学分野教授)ふるかわてつし氏。89年東京医科歯科大学大学院医学研究科博士課程修了。米国マイアミ心臓研究所、マイアミ大学留学を経て、94年東京医科歯科大学難治疾患研究所自律生理分野・助手。99年秋田大学医学部第一生理学講座・助教授、2003年4月より現職。

連載の紹介

古川哲史の「基礎と臨床の架け橋」
臨床医から基礎医学の研究に身を転じた古川哲史氏に、ワンランク上の臨床を実践するために知っておいた方がいい基礎知識を、論文トピックスを材料に解き明かしてもらいます。

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