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心不全治療におけるCRTノン・レスポンダーへの対応
心外膜メッシュを用いた「心再建術」の試み

2016/08/01

 心不全の治療において、心外膜メッシュを用いた「心再建術」の開発が進んでいます。ペースメーカを用いた心臓再同期療法CRTにおいて、CRTノン・レスポンダーの存在が問題なのですが、今回、導電性があり、弾性がある素材を用いて作成した弾性導電性心外膜メッシュにより、電気的・力学的に心機能を改善する新しい心不全治療法の動物実験に関する論文が発表されました。

 先日、国立がんセンターから日本のすべての癌の平均5年生存率が62%と発表されました(非がん患者の生存率に対する相対的生存率なので、一般的に使う生存率よりは少し高い数字となっています)。心不全の5年生存率はこれよりも低く、即ち、癌の平均よりも予後が悪く、心不全治療の向上が求められています。本ブログでも何度か取り上げましたが(関連記事)、ペースメーカを用いた心臓再同期療法CRTが導入され、良好な成績を上げています。一方で、CRTノン・レスポンダーの存在が問題となっており、次なる手を考える必要があるようです。今回紹介する論文は、次の一手を考える新たな試みの1つとなります。

論文:
弾性導電性心外膜メッシュのラッピングによる電気力学的心再建術
Electromechanical cardioplasty using a wrapped elasto-conductive epicardial mesh
Park J, et al.
Sci. Transl. Med. 2016;344:344ra86

●心外膜ラッピングによる心再建術の歴史
 「cardioplasty」の和訳を辞書で調べると「胃噴門形成術」と出てきます。本論文では、「心形成術」あるいは「心再建術」を意味する造語として使っているようです。

 ラッピングによる心再建術の歴史は意外に古くて、1980年に骨格筋で心外膜を包む方法が導入されました。しかし、特に致死性心室性不整脈により普及しなかったようです。続いて試みられたデバイスを用いた臨床治験では、CorCapとHeartNetが行われましたが、有効性が高くなくこれも普及しませんでした。これは、ラッピングに用いた素材の導電性と弾性が低かったことに起因するようです。

 今回、「銀ナノワイヤー(SILVER Nano-Wire:AgNW)」と代表的な合成ゴムである「スチレン-ブタジエン-スチレン(Styrene-Butadiene-Styrene:SBS)」を混合して、AgNWにより導電性を、SBSにより弾性を高くする工夫がこらされています。AgNWの割合を上げると弾性が落ち、SBSの割合を増やすと導電性を落ちることから至適な割合が追及され、65:35という割合が導き出されました。これによって2mmの厚さのメッシュを作ると、導電性が11,210 S/cm、弾性モデュールが34.67±6.2kPaが得られています。これらの数値が高いのか低いのか皆目見当がつかないと思いますが(筆者もそうです)、生体の心外膜とほぼ同じ導電性と弾性だそうです。

 メッシュ素材は図1Aのような「へびのような動き」という意味のサーペンタインserpentineと呼ばれる形状に加工されています。このような形状は、伸縮性を上げるためにとられた工夫です。次に、心臓CT画像を元にした3Dプリンティングで、各心臓にフィットしたオーダーメイドの心外膜メッシュを作成しています(図1B)。

著者プロフィール

古川哲史(東京医科歯科大学難治疾患研究所生体情報薬理学分野教授)ふるかわてつし氏。89年東京医科歯科大学大学院医学研究科博士課程修了。米国マイアミ心臓研究所、マイアミ大学留学を経て、94年東京医科歯科大学難治疾患研究所自律生理分野・助手。99年秋田大学医学部第一生理学講座・助教授、2003年4月より現職。

連載の紹介

古川哲史の「基礎と臨床の架け橋」
臨床医から基礎医学の研究に身を転じた古川哲史氏に、ワンランク上の臨床を実践するために知っておいた方がいい基礎知識を、論文トピックスを材料に解き明かしてもらいます。

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