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自由に動けない一酸化窒素NO ヘモグロビンが交通信号!

2013/01/09

 一酸化窒素NOは、ずり応力shear stress・アセチルコリンなどの刺激で血管内皮細胞から放出され血管平滑筋を弛緩させる働きがある。この血管内皮由来弛緩因子のNOはガス状シグナル物質であり、その発見以来血管内皮細胞-血管平滑筋細胞間を自由に拡散するものと考えられてきた。今回、この常識が覆された。NOは、内皮細胞-平滑筋細胞間を自由拡散するのではなく、同部位に存在するヘモグロビンHbが交通整理にあたることが以下の論文で明らかとなった。これは、まさに「目からうろこ」の新展開である。

血管内皮細胞のヘモグロビンαの発現が一酸化窒素シグナル伝達を制御する
Endothelial cell expression of haemoglobin α regulates nitric oxide signaling
Adams C. Straub et al.
Nature 2012;491:473-477

■血管内皮細胞のヘモグロビンα(Hbα)がNOの拡散に関与
 血管の内皮細胞と平滑筋細胞は直接、接しているわけではなく、その間に内弾性板internal elastic laminaと呼ばれる遮蔽物が存在する。内弾性板にはところどころ孔があいており、そこから内皮細胞が伸びて平滑筋と接している(図1A左、図3も参照)。この部分を筋-内皮接合部myo-endothelial junction (MEJ)と呼ぶ。動脈は、太く弾性線維に富み血管ポンプの役割を果たす大動脈などの「弾性血管」と、平滑筋に富み全身血管抵抗としての役割を果たす細動脈などの「抵抗血管(別名筋性血管)」に分類される。MEJは、弾性血管には存在しないが抵抗血管には豊富に存在する。

 Staubらは、このMEJにHbαが局在することを見出した。図1では、in vivoとin vitroの実験例を示す。図1Aはin vivo実験であり、MEJが存在する抵抗血管の胸背動脈にはHbα発現を示す金粒子が同定されるが、MEJが存在しない弾性血管の頸動脈では金粒子が見当たらない。図1Bはin vitro実験結果である。内皮細胞と平滑筋を孔のあいたトランスウェルを介して共培養するとMEJが形成され(図2参照)、同部位にHbαが発現する。MEJ部分を取り除いた血管内皮細胞・血管平滑筋細胞には、Hbαは発現しない。

著者プロフィール

古川哲史(東京医科歯科大学難治疾患研究所生体情報薬理学分野教授)ふるかわてつし氏。89年東京医科歯科大学大学院医学研究科博士課程修了。米国マイアミ心臓研究所、マイアミ大学留学を経て、94年東京医科歯科大学難治疾患研究所自律生理分野・助手。99年秋田大学医学部第一生理学講座・助教授、2003年4月より現職。

連載の紹介

古川哲史の「基礎と臨床の架け橋」
臨床医から基礎医学の研究に身を転じた古川哲史氏に、ワンランク上の臨床を実践するために知っておいた方がいい基礎知識を、論文トピックスを材料に解き明かしてもらいます。

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