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肺静脈圧上昇だけが肺うっ血の原因じゃなかった!
肺胞-毛細血管バリア傷害の関与が浮上

2012/12/05

 今年は山中先生がノーベル賞医学生理学賞を受賞したというトビッキリ明るい話題もあったが、全体的には暗い話題が多かったように思う。自分に関係するものでも、国立大学教員の給料10%カット、退職金17%削減の閣議決定などがあり、なんとも元気が出ない。最後くらい、明るい未来を期待させる話題を取り上げ無理矢理でも気分を盛り上げたい。

 心不全では、左室拡張期圧・肺静脈圧の上昇に伴い体液が肺胞腔へリークし、肺うっ血とこれに合併する労作性呼吸困難・運動耐容量低下などの臨床症状が引き起こされる。肺うっ血に対して、循環血液量の減少と血管内への体液のシフトを狙い、利尿薬と血管拡張薬を主体とした治療が行われる。これらの治療では必ずしも十分な効果が得られないことがしばしばある。ところが、これらに代わる治療法は今のところなく、これは主に肺うっ血の発現メカニズムの理解が十分でないことに起因する。今回、そんな心不全に伴う肺うっ血治療に新展開を予感させる下記の論文を紹介する。

「経口で活性型のTRPV4チャネルブロッカーは心不全による肺うっ血を予防・改善する」
An orally active TRPV4 channel blocker prevents and resolves pulmonary edema induced by heart failure
K.S. Thorneloe et al.
Sci. Transl. Med. 2012;4:159ra148



■「肺胞-毛細血管バリアalveolar-capillary barrier」傷害の関与
 心不全時の肺うっ血に対して肺静脈上昇が主要な原因であることは間違いないが、どうもそれだけではないらしい。Sci. Transl. Med.の同一号で同じグループが、チップ上に肺胞-毛細血管バリアモデルを構築する”lung-on-a-chip”を報告している(Sci. Transl. Med. 2012;4:159ra147)。肺では、図1Aのように基底膜を介して肺胞腔の上皮細胞と毛細血管の内皮細胞が接している。薬剤誘発性肺うっ血のマウスモデルでは、血管内皮細胞が基底膜から解離し、血管内皮細胞バリア、肺胞上皮細胞バリアにホールが形成され(図1B、白矢印)、このホールを介して血漿が肺胞腔内にリークする。血中からは、プロトロンビンやフィブリノーゲンなどの凝固関連因子も漏出し、組織因子による第X凝固因子の活性化が起こり肺胞腔内にフィブリン血栓が形成される。これがガス交換効率の低下に拍車をかける。

著者プロフィール

古川哲史(東京医科歯科大学難治疾患研究所生体情報薬理学分野教授)ふるかわてつし氏。89年東京医科歯科大学大学院医学研究科博士課程修了。米国マイアミ心臓研究所、マイアミ大学留学を経て、94年東京医科歯科大学難治疾患研究所自律生理分野・助手。99年秋田大学医学部第一生理学講座・助教授、2003年4月より現職。

連載の紹介

古川哲史の「基礎と臨床の架け橋」
臨床医から基礎医学の研究に身を転じた古川哲史氏に、ワンランク上の臨床を実践するために知っておいた方がいい基礎知識を、論文トピックスを材料に解き明かしてもらいます。

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