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“MI beget MI”、心筋梗塞自体が動脈硬化を促進する
心筋梗塞2次予防にβブロッカーを用いるもう1つの根拠

2012/08/06

 先日、2011年の死亡統計が発表された。1951年以来60年続いてきたがん・心疾患・脳卒中のベストスリーが崩れて、脳卒中が4位、肺炎が3位になったのに驚いた人も多かったのではないだろうか。われらが心疾患は、治療の進歩にもかかわらずいまだに第2位の座に居座っている。心疾患死亡のもっとも多い原因の心筋梗塞では、初回心筋梗塞の救命率はTPA導入や緊急PTCAの普及により90%に近づいている。その一方で、心筋梗塞の再発率は高い。特に心筋梗塞発症後の1年間は17.4%となっており、心筋梗塞の1次予防に加えて2次予防(再発防止)の重要性が問われている。心筋梗塞再発に関して、興味深い論文がNature誌に発表された。臨床に近い論文は通常Nature Medicine誌に回されることが多い。Nature本誌、しかもLetterでなくArticleにこのような論文が掲載されることは極めて珍しく、下記論文のインパクトの高さがうかがえる。

Myocardial infarction accelerates atherosclerosis
Partha Dutta et al.
Nature 2012;487:325-329

●心筋梗塞はアテローム巣への単球浸潤を促進する

 安定性の冠動脈アテローム性動脈硬化巣は厚い線維性被膜に覆われており、アテローム巣の拡大・破裂、血小板凝集などの病理的変化は起こりにくい。ところが何らかの原因で単球・マクロファージなどの炎症性細胞が病変部位に浸潤すると、これらの細胞からプロテアーゼ(メタロプロテアーゼ、カテプシンなど)が放出され細胞外基質を破壊する。これにより、線維性被膜の菲薄化・破裂とこれに続く血小板凝集を惹起することにより、不安定狭心症・心筋梗塞発症へと進展する。

 上記の論文でDuttaらは、マウスを用いて動脈硬化巣に対する心筋梗塞の影響を検討している。マウスには、通常動脈硬化は起こらない。ところが、コレステロールの肝臓への逆輸送に関わるリポ蛋白ApoEをKOしたマウスを高脂肪食で飼育すると動脈硬化が形成される。

 このアテローム硬化巣をもつApoE KOマウスにおいて、冠動脈結紮を行う心筋梗塞群(MI群)と行わない非心筋梗塞群(非MI群)に分けてアテローム硬化巣を比較した。その結果、非MI群に比べてMI群では、3週間後の動脈硬化巣での単球浸潤とプロテアーゼ活性、およびプラークサイズが増強し、線維性被膜の菲薄化が起きた(図1)。すなわち、「何らかの原因で単球・マクロファージ…」と前記した「何らかの原因」の1つがMI自体であり、アテローム巣への単球の浸潤を引き起こしたことになる。

著者プロフィール

古川哲史(東京医科歯科大学難治疾患研究所生体情報薬理学分野教授)ふるかわてつし氏。89年東京医科歯科大学大学院医学研究科博士課程修了。米国マイアミ心臓研究所、マイアミ大学留学を経て、94年東京医科歯科大学難治疾患研究所自律生理分野・助手。99年秋田大学医学部第一生理学講座・助教授、2003年4月より現職。

連載の紹介

古川哲史の「基礎と臨床の架け橋」
臨床医から基礎医学の研究に身を転じた古川哲史氏に、ワンランク上の臨床を実践するために知っておいた方がいい基礎知識を、論文トピックスを材料に解き明かしてもらいます。

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