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味覚研究から見えてきた食と循環器病の意外な関係

2012/07/05

 今回は、皆さんにとって身近な話題、「」について取り上げたい。高血圧・心不全では塩分制限、虚血性心疾患では脂肪制限、糖尿病ではカロリー制限と、循環器系疾患は何かと食事制限が多い領域である。6月21日号のNatureの特集OUTLOOKで、味覚研究taste scienceが紹介されていた。

Hardwired for tase Bijal P. Trivedi Nature 486, S7-S9 (21 June 2012) doi:10.1038/486S7aPublished online 20 June 2012 他

 おいしそうな食べ物の写真につられてついつい興味深く読んでしまったが、味覚がこんなにも循環器病と関係があるとは意外であった。味覚には5つの基本味、甘味、酸味、塩味、苦み、うま味、がある。今回は、この中から塩味、甘味、それと最近第6の味覚と言われて肥満との関係が注目されている脂味に関する話題を取り上げたい。

●塩味-高血圧患者の教育入院は意味があるの?

 塩味を感知する分子が明らかとなったのは意外と最近のことのようだ(Chandrashekar J. et al. Nature 2010;464:297-3012)。塩味の受容体は、腎集合管でNa+再吸収に関わるチャネル上皮型Na+チャネルENaC(endothelial Na+ channel)であった。ちなみに、ENaCはカリウム保持性利尿薬トリアムテレンの標的分子である。

 高塩分食を食べていると、味覚受容細胞の塩味に対する感受性が低下しある程度塩分を含む食事でも味がうすいと感じ、逆に低塩分食を食べていると塩味に対する感受性が上昇し少しの塩分を含む食事でもしょっぱいと感じるようになる。

 これは、受容体レベルではなく味覚神経レベルの変化で起こるようである。高血圧の人が何らかの原因で入院したとき、高血圧食として低塩分食をオーダーすると思う。どうせ退院するとすぐ元の食事に戻って、血圧もまた上がってしまうのだろうな、と半ばあきらめ気味にオーダーを出すこともあるが、実は科学的根拠に基づいた長期的効果が期待されるようだ。

 ENaCは、味覚受容細胞だけでなく大腸上皮細胞にも存在する。腎集合管のENaCは、アルドステロンにより発現が増加する。これにより心不全の時、Na+再吸収量・循環血液量が増加し、Frank-Starlingの法則により低心拍を代償する機転となるが、一方でうっ血のリスクともなる。大腸上皮細胞にもミネラルコルチコイド受容体が発現し、アルドステロンによりENaCの発現が増加する。心不全などで、血中アルドステロン量が上昇している人は、腎臓からのNa+再吸収だけでなく食事で同じ量の塩分を摂取しても腸からのNa+吸収量が増えているのかもしれない。

●甘味-甘いものは3度おいしい

 甘味を感知する受容体は、T1R2(Taste 1 Receptor-1)/T1R3のヘテロダイマーからなる。この受容体を蛍光色素でマーキングしてみると、図1のように味蕾だけでなく胃や小腸などにも存在する。味蕾以外の場所に存在する甘味受容体には、どのような働きがあるのだろう?

著者プロフィール

古川哲史(東京医科歯科大学難治疾患研究所生体情報薬理学分野教授)ふるかわてつし氏。89年東京医科歯科大学大学院医学研究科博士課程修了。米国マイアミ心臓研究所、マイアミ大学留学を経て、94年東京医科歯科大学難治疾患研究所自律生理分野・助手。99年秋田大学医学部第一生理学講座・助教授、2003年4月より現職。

連載の紹介

古川哲史の「基礎と臨床の架け橋」
臨床医から基礎医学の研究に身を転じた古川哲史氏に、ワンランク上の臨床を実践するために知っておいた方がいい基礎知識を、論文トピックスを材料に解き明かしてもらいます。

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