日経メディカルのロゴ画像

EPISODE 12
植込型左室補助人工心臓への期待と現実
コロンビア大学胸部外科・高山博夫

2011/03/03

 さて、すっかりご無沙汰してしまいました。コロンビア大学胸部外科の高山です。今回は人工心臓、中でも植込型左室補助人工心臓(Left Ventricular Assist Device:LVAD)について書きたいと思います。

 私が勤めるコロンビア大学は世界有数の心臓移植件数を誇る施設で、LVAD植え込み手術も多く行っており、私自身も多数経験しました。その観点から、LVAD治療が日本の医療全体および循環器関連診療科に与える影響について考察してみます。

 昨年末、日本でDuraHeart(テルモ)とEVAHEART(サンメディカル技術研究所)が承認されたことは記憶に新しいことでしょう。前者は今年4月から発売が開始され臨床使用が始まるようです。これは日本社会にとって画期的な出来事だと考えます。ご存知の通り、日本では移植医療が他国に比較して慎重に進められています。

 これは日本社会の諸事情によるもので一概に是非を問える問題ではなく、急いて移植件数を増やすよう働きかけるべきでもないと考えます。社会事情、医療事情、移植医療事情がそれぞれの国で違いがあることを理解した上で、国民・社会全体が移植医療を必要なものとして受け入れていくことが大切であり、それには一定の時間がかかるものでしょう。

 最近お亡くなりになった和田寿郎教授(当時)による札幌医大での心臓移植より43年、いろいろな変遷があり、現状があります。今後も情報公開・議論を重ねて、日本らしい制度を作り上げていくべきでしょう。

 一方で、移植件数が少ないことにより、重症心不全で多くの方が厳しい闘病生活を強いられている現状があります。私も含め、個々の患者さんに接する立場にある医師としては、やはり移植件数が増加することを望む気持ちが強くなります。移植件数の多い米国では、重症心不全の患者さんたちに接して治療方針を説明するとき、心臓移植という最終手段を現実的な治療方針として提供することができるため、患者側・医療側に大きな希望をもたらしています。

 すなわち、「これ以上できることはない」といった絶望的な状況に追い込まれずにすむのです。しかしながら米国でも、年間心臓移植件数は2000~2200件程度で横ばいです。日本に比べるととてつもない数ですが、待機患者数はこれを大きく上回っており、大多数が移植までたどり着けない計算になります。

 ここで登場するのがLVADで、心臓移植が必要だが待機する余力がない患者さんには、LVADを植え込むこと(bridge to transplantと呼ばれます)で時間稼ぎができます。また、さまざまな理由で心臓移植の適応外だと判断された患者さんに対しても、LVADを移植心の代わりに使用する治療(destination therapyと呼ばれます)を提供することができます。

 これらの役割は、末期腎不全に対する透析医療と同様といえましょう。これらのLVAD治療の有効性は多くの臨床研究で実証されたもので、欧米ではLVAD治療は末期心不全治療の大きな一翼を担っています。さらに、技術の進歩に伴い、もっと優れたデバイスが開発されることが予想され、この分野は今後も発展していくでしょう。
 

著者プロフィール

小船井 光太郎 氏
(牧港中央病院循環器内科・副院長)
おぶない こうたろう。1996年新潟大医学部卒、東京女子医大循環器内科入局。00年Beth Israel Medical Centerで内科・循環器内科研修。Columbia University循環器内科に移り専門医を取得、07年同科講師、10年より現職。

連載の紹介

小船井&高山の「米国心臓医療レポート」
高山 博夫 氏
(Columbia University胸部外科Assistant Professor)
たかやま ひろお。1996年東大医学部卒。同年同病院外科研修。2000年東大医学部付属病院胸部外科研修。03年University of Washington外科研修。07年Columbia University胸部外科研修。09年講師、11年より現職。

この記事を読んでいる人におすすめ