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EPISODE 8
米国の専門医は資格取得1年目でも自分で手術方針を決める
コロンビア大学胸部外科・高山博夫

2010/02/10

米国胸部外科専門医筆記試験合格通知(左)と口答試験申し込み用紙(右)

 誤解を恐れず大雑把に、日米両国の心臓外科修練制度の違いを登山に例えてみます。頂上は「手術ができる心臓外科医になること」です。

 「登山の希望者を募集します。参加資格を満たしていても、定員以上は参加できません。頂上はあそこに見えています。登山道はよく整備されています。途中険しい場所もあり、そこで落伍者も出るでしょうが、頂上までX年以内にたどり着けたら専門医資格を授与します」――というのが米国流。

 対して、「頂上は雲に隠れて不明です。登山道が有るのかどうかもわかりません。しかし偉大なる某教授は立派に登頂されました。登りたい人は何年かかっても登ってください。健闘を祈ります!なお、専門医資格は登山途中で授与する予定です」――。これが日本流かと思います。

 日本の心臓外科界では専門医制度がホットな話題です。数年前から心臓外科での「手術死」が時折メディアをさわがせており、それに伴って心臓外科医の「実力」に対する患者側の関心が高まっているからです。昨今はやりの病院・医師のランキング本には、必ずといっていいほど心臓外科の項目があります。

 心臓外科は高度な手術手技が必要な上に、その成果が生死に直結します。技術が未熟な外科医が手術をして、ミスをすると、術後関連死につながることは明白です。患者にとって分かりにくいのは、手術が下手な医師、技術が未熟な医師が専門医の資格を持っているということでしょう。

 「専門医」の資格を取得するということは、その分野の学会が医師の「臨床能力」を(ある程度)保証したということ、というのが一般的な理解だと思われます。従って「手術死」に関係した心臓外科医が日本心臓血管外科学会から専門医を取得していたと聞けば、一般の人はびっくりすることでしょう。「その医師に専門医の資格を出したのはなんでやねん!」ということで、専門医制度が脚光(?)を浴びることになったようです。

 「ちゃんと手術できる外科医を専門医として認める制度にすればいいんじゃないの?」というのが社会からの当然の要望だと思います。しかし、「ちゃんと手術できる」ことをどう確かめるか――。「外科医の腕前」を客観的に判定することは、実はとても難しい課題です。安定した手術の遂行には、判断・知識・技術を中心とした外科医の総合力が問われます。

 ちなみに手術のうまい下手は、確実に存在します。外科医がほかの外科医の手術を見ると腕前はかなりの正確さで判定できます。しかしこれらを直接的かつ客観的に評価する方法はなく、そのような方法を確立しようとする研究すら目に付きません。

 手術成績、例えば手術死亡率を目安にして間接的に腕前を見るという方法はありますが、成績は症例の術前重症度の影響を強く受けるため、大きなバイアスが掛かります。それをリスク・アジャストするためには、評価を受ける外科医は、かなりの症例数を執刀している必要がありますので、すべての外科医をこの方法で評価することは難しいといえます。

著者プロフィール

小船井 光太郎 氏
(牧港中央病院循環器内科・副院長)
おぶない こうたろう。1996年新潟大医学部卒、東京女子医大循環器内科入局。00年Beth Israel Medical Centerで内科・循環器内科研修。Columbia University循環器内科に移り専門医を取得、07年同科講師、10年より現職。

連載の紹介

小船井&高山の「米国心臓医療レポート」
高山 博夫 氏
(Columbia University胸部外科Assistant Professor)
たかやま ひろお。1996年東大医学部卒。同年同病院外科研修。2000年東大医学部付属病院胸部外科研修。03年University of Washington外科研修。07年Columbia University胸部外科研修。09年講師、11年より現職。

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