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専門外の当直医による医療過誤、裁判所の判断は?

2022/05/25
大島 眞一(大阪高裁 部総括判事)

 今回は、救急医療について考えてみます。

 わが国の救急医療は、厚生労働省の「救急医療対策事業実施要綱」(昭和52年7月6日医発692号)に基づき、重症度・救急度に応じた初期(休日夜間急患センターなどが対応)、2次(入院治療を要する救急医療を担う医療機関が対応)、3次(救命救急センターが対応)という、階層状の体制がとられています。

 3次救急を担う救命救急センターでは、重度の患者に対応するため、相応の人員体制が整えられていますが、2次救急病院では、当直医師は1人か2人のケースが多く、十分な体制がとられているとはいい難いようです。

 医師の働き方改革において、2024年4月からすべての医師に時間外労働の上限規制が適用されることもあり、今後、夜間・休日対応に当たる医師を診療科ごとにそろえるのは相当難しいのではないかと思います。例えば、脳神経外科医が当直の時に、交通事故で負傷した患者が搬送されてきたものの、心疾患を発症していて当直医が適切に対応できなかった場合、医療機関や医師の責任を認められるかという問題が生じます。今後はそうしたケースが増えることも考えられます。

 この点に関する最高裁判決はありませんので、下級審判決を見てみます。

 大阪高裁平成15年10月24日判決(判例タイムズ1150号231ページ)は、交通事故で受傷後の患者が心タンポナーデにより死亡した事案につき、2次救急医療機関で当直を担当していた脳神経外科医が「経過観察」とした措置について、2次救急医療機関の医師として、救急医療に求められる医療水準を満たしたものではないとして過失を肯定しています。

 また、福岡地裁平成24年3月27日判決(判例時報2157号68ページ)は、救急搬送患者について、一過性脳虚血発作(TIA)を見逃したことにつき、診察した医師が専門外であっても一般的な医療水準に則した診断の義務があるとして、医師の過失を認めています。

 他方で、こんな裁判例もあります。患者が胸痛を訴えて病院を受診。当直医が心電図における急性心筋梗塞を疑わせる所見を見逃し、患者を帰宅させたところ、患者は帰宅途中に救急搬送され、翌日死亡しました。当直医は内科医でしたが、循環器が専門ではありませんでした。福岡高裁平成22年11月26日判決(判例タイムズ1371号231ページ)は、その当直医に循環器の専門医と同等の判断を要求することは酷であり、急性心筋梗塞を疑わせる所見を見逃したことはやむを得なかったとして、帰宅させた当直医の過失を否定しました。

著者プロフィール

おおしま しんいち氏●1984年神戸大学法学部卒、司法修習生(38期)。京都地裁判事、大阪高裁判事、神戸大学法科大学院教授、大阪地裁判事などを経て、2017年徳島地家裁所長、2018年奈良地家裁所長、2020年2月より現職。大阪地裁では医療訴訟を扱う医事部の総括を務めた。『Q&A医療訴訟』(判例タイムズ社)などの著書がある。

連載の紹介

裁判官が語る医療訴訟の実像
医療訴訟が提起されたらどのようなプロセスを経て和解や判決に至るのか、個々の裁判に影響を与えるリーディング・ケース(重要判例)とは――。大阪地裁で医療訴訟を専門に取り扱った経験を持つ著者が、これまでの経験を踏まえ、医療訴訟の実像を分かりやすく紹介します。
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