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精神科入院患者が他害行為、裁判所の判断は?

2020/12/23
大島 眞一(大阪高裁 部総括判事)

 今回と次回で「精神科医療」について考えてみます。

 精神科医療は、他の診療科目とは異なって、医療法および医師法という一般的な医事関係法規のほか、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」によっても特別な規制がされている分野です。例えば、精神病患者に対し、一定の要件の下で強制入院が許容され、厳格な要件の下で強制的医療行為(保護室への隔離、身体拘束等)が認められています(同法29条、29条の2、33条、36条等および旧厚生省告示)。

 これらの経緯を踏まえ、日本精神神経学会は2013年に「日常臨床における自殺予防の手引き」を取りまとめたほか、日本精神科救急学会は2015年に「精神科救急医療ガイドライン」を改訂し、精神科医療における自殺予防に対する取り組みが進められています。
 
 精神科関係では、(1)患者が第三者を殺害したり傷害を与えた場合、あるいは患者が自殺等自傷行為をした場合の医療機関の責任、(2)精神神経科医師の患者に対する言動の違法性──を巡って訴訟が提起されることがあります。

 精神科の入院患者に対し、薬物療法や身体的拘束、閉鎖的施設への収容をしていれば、それだけ自殺その他の自傷行為あるいは第三者への危害を避けることができるといえますが、患者の尊厳の見地から、いたずらに拘束をすればよいというものではありませんし、患者の社会復帰の観点からは、開放処遇も重要です。つまり、入院患者の自傷他害の防止の観点からは、閉鎖的施設への収容等の防止策が必要ということになりますが、患者の社会復帰の観点からは、こうした措置は好ましくないということになり、社会復帰を念頭に置いた適切な治療と自傷行為や第三者への危害の防止策は、二律背反性があるといえます。

 今日の精神科医療は、あくまでも患者の精神的疾患を取り除き、患者の社会復帰を目指すものであることから、患者の自由を必要以上に抑圧することは、患者の人権の観点から問題があるだけでなく、治療の目的に照らしても有害であるとする考えが強いように見受けられます。

 今回は、患者が第三者を殺害したり第三者に傷害を与えた場合の医療機関の責任について見てみます。この点については、少し以前ですが、次の最高裁判決があります。

著者プロフィール

おおしま しんいち氏●1984年神戸大学法学部卒、司法修習生(38期)。京都地裁判事、大阪高裁判事、神戸大学法科大学院教授、大阪地裁判事などを経て、2017年徳島地家裁所長、2018年奈良地家裁所長、2020年2月より現職。大阪地裁では医療訴訟を扱う医事部の総括を務めた。『Q&A医療訴訟』(判例タイムズ社)などの著書がある。

連載の紹介

裁判官が語る医療訴訟の実像
医療訴訟が提起されたらどのようなプロセスを経て和解や判決に至るのか、個々の裁判に影響を与えるリーディング・ケース(重要判例)とは――。大阪地裁で医療訴訟を専門に取り扱った経験を持つ著者が、これまでの経験を踏まえ、医療訴訟の実像を分かりやすく紹介します。
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