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今改めて振り返る「終末期」を巡る裁判例

2020/08/26
大島 眞一(大阪高裁 部総括判事)

 7月23日に筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者の嘱託を受けて殺害したとして医師2人が逮捕され、8月13日に起訴されました。罪名は、刑法202条の同意殺人罪です(法律で定める刑は6カ月以上7年以下の懲役または禁固となっています)。

 この事件を機に、患者の苦痛の除去のため積極的な医療行為により死に至らせる「安楽死」や、回復不可能な末期状態の患者に対し、人間としての尊厳を害すことなく死を迎えさせるために延命措置をしない、あるいは中止する「尊厳死」についての議論が活発になっています。そこで今回は、病院での終末期患者の「死の迎え方」に関する裁判例を改めて紹介したいと思います(前回の損害論の続きは、後の回で紹介します)。
 
 安楽死については、末期癌の患者に塩化カリウムを投与して死に至らしめた、いわゆる東海大学安楽死事件の横浜地裁平成7年3月28日判決(判例タイムズ877号148ページ)があり、安楽死が適法となる4要件として、(1)患者に耐えがたい激しい肉体的苦痛が存在すること、(2)患者に死が避けられず、死期が迫っていること、(3)患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために他に方法がないこと、(4)生命の短縮を承諾する患者の意思表示があること──が示されました。本件はそれらを満たしていないとして、被告人の医師を懲役2年、2年間執行猶予としています(控訴はなく、確定しました)。

 一方、終末期の治療の中止に関する裁判例としては、最高裁まで争われた川崎協同病院事件が有名です。この事件を改めて振り返ってみましょう。

著者プロフィール

おおしま しんいち氏●1984年神戸大学法学部卒、司法修習生(38期)。京都地裁判事、大阪高裁判事、神戸大学法科大学院教授、大阪地裁判事などを経て、2017年徳島地家裁所長、2018年奈良地家裁所長、2020年2月より現職。大阪地裁では医療訴訟を扱う医事部の総括を務めた。『Q&A医療訴訟』(判例タイムズ社)などの著書がある。

連載の紹介

裁判官が語る医療訴訟の実像
医療訴訟が提起されたらどのようなプロセスを経て和解や判決に至るのか、個々の裁判に影響を与えるリーディング・ケース(重要判例)とは――。大阪地裁で医療訴訟を専門に取り扱った経験を持つ著者が、これまでの経験を踏まえ、医療訴訟の実像を分かりやすく紹介します。
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