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パチンコ店の休業を強制できなかった理由

2020/05/27
大島 眞一(大阪高裁 部総括判事)

 新型コロナウイルス感染症COVID-19)の罹患者数の増加に一定の歯止めがかかり、緊急事態宣言が解除されたのは大変嬉しいことです。COVID-19を巡っては、この1カ月間、様々な動きがありましたが、大きな話題となったのが休業の要請や指示に従わないパチンコ店の事例でした。今回は、医療の話から離れますが、この問題について考えてみます。

 パチンコ店は、COVID-19の罹患者数が増えても営業を継続する店舗が少なくなかったようで、都道府県によっては、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)45条2項に基づく休業要請を出し、それに従わないパチンコ店に対しては同条3項に基づく行政処分である休業指示を出しました。しかし、それにも従わないケースもありました。

 もともと特措法は、休業指示に従わなかったとしても、「公表」する以外には制裁を科すことはできない手続きになっています(特措法45条4項)。したがって、休業指示を出し、店名を公表しても、指示を無視する事業者に対してはそれ以上のことはできません(関連記事:新型コロナの特措法、混同されやすい2つの条文)。

 これは、特措法で補償が明記されていないことと関係します。例えば、特措法では、緊急事態措置の実施に必要な医薬品などについては、当該物資の所有者が正当な理由がなく売り渡しの要請に応じない場合には、都道府県知事は、その物資を収用する(強制的に取得する)ことができますが、その場合、通常生ずべき損失を補償することになっています(特措法55条、62条)。

 また、臨時の医療施設を開設するため、当該土地の所有者などが使用に同意しなかった際には、都道府県知事は、医療施設の開設のためにその土地を同意を得ずに使用することができますが、その場合も、通常生ずべき損失を補償することになっています(特措法49条、62条)。

著者プロフィール

おおしま しんいち氏●1984年神戸大学法学部卒、司法修習生(38期)。京都地裁判事、大阪高裁判事、神戸大学法科大学院教授、大阪地裁判事などを経て、2017年徳島地家裁所長、2018年奈良地家裁所長、2020年2月より現職。大阪地裁では医療訴訟を扱う医事部の総括を務めた。『Q&A医療訴訟』(判例タイムズ社)などの著書がある。

連載の紹介

裁判官が語る医療訴訟の実像
医療訴訟が提起されたらどのようなプロセスを経て和解や判決に至るのか、個々の裁判に影響を与えるリーディング・ケース(重要判例)とは――。大阪地裁で医療訴訟を専門に取り扱った経験を持つ著者が、これまでの経験を踏まえ、医療訴訟の実像を分かりやすく紹介します。
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