
イラスト:畠中 美幸
A診療所は大都市の郊外に立地し、整形外科を標榜している。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が続く中、同院のスタッフにも新型コロナウイルスワクチンの先行接種が行われたが、理学療法士のB男だけは、現在に至るまで接種を頑なに拒み続けている。
院長がB男に理由を尋ねたところ、「効果に対して疑問があるし、将来的にどんな副反応が生じるか分からないので信用できない」とのこと。A診療所は高齢患者が多く、院長としては、高齢者への感染防止の観点からスタッフ全員に接種してもらいたいと考えていた。だが、強制できないことは理解していたため、B男のスタンスに対し特に何か言うようなことはなかった。
ところがその後、何人かの患者から、B男に関する苦情が入るようになった。「お宅の職員が『俺はあんなワクチンは信じないので打っていないよ』と言っているが、コロナのワクチンを接種しても大丈夫か。不安で仕方がない」──。患者たちはそう訴えた。話を聞いて院長は困惑したが、苦情が入った以上、何らかの対応はしなければならない。そこで、顧問の社会保険労務士に相談してみることにした。