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敗訴のリスクを高める患者への「過度な配慮」

2019/10/23
桑原 博道 墨岡 亮(仁邦法律事務所)

 「その説明では患者は誤解しますよ」――。裁判で患者側がこのような主張をし、医師に説明義務違反が認められて敗訴することがあります。そうしたケースでは、いったいどのような説明がなされていたのでしょうか。以下に示す3つの事例を基に、患者説明のときに注意すべきポイントを紹介したいと思います。

 1つ目の事例は、喉頭癌の患者に放射線治療を行ったものの、最終的には喉頭の全摘出に至ったケースです。右仮声帯の腫脹と嗄声の持続が確認されていたものの、その時点では生検を行わず、時間が経過した後に生検を行い、喉頭癌と診断しました。

 裁判で医療機関側は、医師は生検を勧めるため「悪いものである可能性も否定できないので、早い時期に検査を受けていただくのが適切と思う」などの説明をしたけれども、患者が拒否したと主張しました。しかし、平成23年3月23日東京地裁判決は、「『悪いもの』という言葉は多義的であって、必ずしも生命に危険を及ぼす癌のような疾病を意味するわけではなく」と述べて、医師の説明義務違反を認め、慰謝料200万円を含む220万円の賠償を命じました。

 医師からすると、「悪いもの」といえば悪性、すなわち癌を示唆した表現になるものと思われますが、患者としては、「悪いもの」という言葉では必ずしも「癌」に結び付かないというのです。症状の原因がはっきりしない中で、医師があえて「悪いもの」と言うからには、患者も「癌」の可能性をイメージできそうなものですが、そうとは言えないというのが裁判所の判断です。

連載の紹介

日常診療に生かす医療訴訟の教訓
患者とのトラブルで頭を悩ませないようにするためには、日々の診療で紛争予防を意識した対応をしておくことが欠かせません。本連載では、医療機関側の弁護活動を行う仁邦法律事務所(東京都港区、桑原博道所長)の弁護士が、実際の裁判例も参照しつつポイントを解説します。

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