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腫瘍内科医には「燃え尽き症候群」が多い?

2015/10/28
津端由佳里(島根大学医学部内科学講座 呼吸器・臨床腫瘍学)

 アメリカの腫瘍内科医約3000人(アメリカ臨床腫瘍学会〔ASCO〕のmembership fileでは、アメリカの腫瘍内科医は約9000人)へ、ワークライフバランスや自身のキャリアへの満足度などについてアンケート調査を実施した結果が2014年のJournal of Clinical Oncologyに掲載されています[1]。最終的に調査に応じた医師は1500人ほどで、半数が女性医師でした。

 不勉強のため、恥ずかしながら、つい最近まで私はこの論文の存在を知らなかったのですが、読んでみると驚くべきことに、約45%の腫瘍内科医が“Burn out”とアンケート結果から判断されています。この数字を見て、皆さんはどう思われますか? 私のように驚かれるのか、それとも当然と感じるのか…。

 高齢化によるがん患者の増加や新しい分子標的治療薬・免疫チェックポイント阻害薬の台頭などで、腫瘍内科医の果たすべき役割は重要性を増すばかりですし、社会からの期待・需要も非常に高いものがあります。よって、個人的には多忙な医師の中でも腫瘍内科医は燃え尽き症候群とは一番縁遠いと考えていたので、この論文の内容には非常に驚きました。

キャリアへの満足度と燃え尽き度にギャップが
 日常会話でも時々使われる「燃え尽き症候群」という言葉。Wikipediaによると「燃え尽き症候群」とは、「一定の生き方や関心に対して献身的に努力した人が期待した結果が得られなかった結果感じる徒労感または欲求不満。慢性的で絶え間ないストレスが持続すると、意欲を無くし、社会的に機能しなくなってしまう症状。一種の心因性(反応性)うつ病とも説明される」と定義されています。

 確かに、腫瘍内科医のお仕事は、毎日がん患者とその家族に接し、患者の思いに寄り添い支えることですが、どんなに献身的に診療に当たっても、多くの患者は残念ながら亡くなってしまいます。一緒にがんという強大な敵と闘った仲間である患者を失うことは、何度経験しても大きな喪失感を伴います。けれども、その感傷に浸る暇もないほど、次から次へとやって来る新しい患者に病状を説明し、化学療法を行い、診療の後は新しい知識を得るために論文を読み、がん診療のエビデンス創出を目的に臨床・基礎研究を行い、さらには学生・研修医の指導に当たる―まさに慢性的で絶え間ないストレスの連続です。

 先述の論文では、キャリアに関する満足度も調査していますが、これに関しては非常に高い満足度が得られていると述べています(「もう一度職業を選択できるとしたら医師を選ぶか?」との問いに82.5%が「YES」と回答、専門科についても「腫瘍内科を選ぶか?」との問いに80.5%の医師が「YES」と回答)。このキャリアへの満足度と燃え尽き度のギャップはどこから来るのでしょうか?

 論文を読む限りでは答えは得られませんでしたが、燃え尽き症候群に陥る危険因子は「患者診療に多くの時間を割いていること」と「医師の年齢がより若いこと」とされています。そもそも、このアンケートに回答すらできないほど忙しい医師の意見は反映されていないであろう可能性を考慮すると、アメリカの腫瘍内科医の“隠れ燃え尽き症候群”率はさらに高く、キャリアへの満足度はやや割り引いた数字として受け止めた方がよいのかもしれません。

肺がん診療では徒労感の連続だけれど…
 さて、日本の場合はどうでしょうか? アメリカと日本では腫瘍内科医がカバーする診療・業務内容には大きな差がありますし、医師の労働環境やワークライフバランスに対する考え方もかなり異なります。キャリアへの満足度は、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医数がようやく1000人に達したばかりですから、私も含め専門医の方々が今後いかに広く国民に認知され、必要とされる「腫瘍内科医」像を確立していくのか、そのためにどのようなキャリア形成をし、後進に臨床腫瘍学の醍醐味を伝えていけるのかがキーになるでしょう。

連載の紹介

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日経メディカルブックス『がん診療UP TO DATE』の著者陣によるリレーエッセイです。がん治療に関する最新の話題や、日常診療の中で遭遇したエピソードなどを、自由な形式で綴ります。

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