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がん診療UP TO DATE トピックス

Liverpool Care Pathwayの普及と、その後の顛末

2014/09/30
小田切拓也(聖隷三方原病院ホスピス科)

 一般病棟における緩和ケアプログラムであるLiverpool Care Pathway(LCP)について、その普及の経緯と問題が生じた顛末を紹介し、検討したい。

LCPの誕生と適用の拡大
 わが国では、在宅死を希望する患者が多いにもかかわらず、がん患者の在宅死は7%、緩和ケア病棟での死は7%で、その他は一般病棟で死を迎えている[1]。欧州でも同様に、1/3~2/3は一般病棟で死亡している[2]。一般病棟での臨死期のケアでは、患者・家族は適切な身体的・精神的・スピリチュアルな症状緩和が得られていない、と報告されている[3、4]。

 LCPは、イギリスの国立リバプール大学病院マリーキュリーホスピスで1990年代後半に開発された、看取りのケアのクリニカルパスである。目的は、緩和ケアについて専門ではない医療者をサポートし、ホスピスでのケアを一般病棟におけるがん患者の臨死期のケアに導入することであった[5]。

 LCPは、患者の予後が数日以内と予測されるときに適用され、患者の状態を評価して治療やケアの目標を修正する「初期アセスメント」、疼痛などの症状緩和が適切に行われ患者の安楽が保たれているかを継続的に評価する「継続アセスメント」、死亡時の対応に関する「死後の処置」から構成されている。症状マネジメント、積極的な治療の適切な中止、患者や家族の心理的・社会的・スピリチュアルなケア、家族とのコミュニケーション、頻回な再評価に焦点が当てられ、多職種チームで行うことが明記されている。

 2003年にはイギリス国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence;NICE)による推奨があり、英連邦、欧州を中心に、世界20カ国以上の医療施設でスタンダードな診療として導入された。当初は一般病棟のがん患者が対象だったが、非がん患者、在宅や介護施設、ICUなどの環境にも適用が拡大されていった。

 様々な質的研究[6~11]、量的研究[12、13]、非コントロール前後比較試験[14~17]でLCPの有用性が示されたが、2つのsystematic review[18、19]では、質の高いエビデンスが必要とされ、推奨されなかった。

 そこで、イタリアの16の総合病院一般病棟で、クラスターランダム化試験が初めて行われた。その結果、遺族が評価する終末期のQOLに関して、通常の終末期ケアを行った病院とLCPを使用した病院において両群に差を認めなかった[20]。

LCPへの問題提起と、それに対する反応
 以前より、イギリスでは不適切なLCP使用例があるとの噂があったが、2009年頃よりタブロイド紙やワイドショーなどのマスメディアによるネガティブキャンペーンが行われるようになり、死を早めようとするケアを政府が支援している、と非難が強まった。

 それに対して、現場の医療者からは支持的な意見が表明された[21]。2013年7月に、イギリス政府の依頼で、第三者評価機構が113名の医療者や遺族への聞き取り調査を行い、independent reviewを発表した[22]。そこでは44の推奨が行われたが、LCPに対して非常に厳しい内容が記載されている。主要な点として以下が挙げられる。

・パス(pathway)という名称のために、LCPが導入されると、患者は死に向かって一方向の道を進むかのような印象を与える。end of life care planという名称が推奨される。

・終末期ケアやLCPに関する教育や訓練を受けていない医療者が、不適切に使用している例があった。

・臨死期という診断や予後予測に不確かさがあり、休日や夜間など上級スタッフがいない場で判断することは不適切である。特に非がん患者において、予後の判断が難しい。

・患者や家族に対してLCPを使用することがきちんと説明されておらず、コミュニケーションにおいて繊細さを欠いた例があった。心肺蘇生や点滴の中止を含む判断過程や同意を得る過程で不適切な例があった。

・LCPはチェックリスト式であるため、個人に配慮したケアではなく、画一的なケアになる懸念がある。特に、不適切なオピオイドの使用や鎮静を行った例があった。

連載の紹介

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