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「抗がん剤は効かない」の罪
腫瘍内科医の大切な役割とは?

2014/09/03
勝俣範之(日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科)

 おかげさまで、拙著『「抗がん剤は効かない」の罪』(毎日新聞社、2014年)には様々な反響をいただきました。概して良いコメントをいただいているのでホッとしているのですが、反面、「難しかった」「もっとしっかりと反論すべき」「抗がん剤が効いたという例を挙げてほしい」などのコメントもいただきました。皆さんがこの問題に関して非常に興味をもっていただいているのと、医療従事者の方々から励ましの言葉を多くいただいたのはありがたいことでした。

 しかし、最近ですと、「食べ物だけで余命○カ月のがんが消えた」などと謳う本がベストセラーになるとか、医師の執筆した新たな“医療否定本”などがはやっているそうで、まだまだわれわれがしなくてはならないことがたくさんあることを実感しています。

 がん治療の世界では、前立腺がんにカバジタキセル[1]とエンザルタミド[2]、悪性黒色腫にニボルマブ[3]、甲状腺がんにソラフェニブ[4]、肺がんにアファチニブ[5]とアレクチニブ[6]、大腸がんにロンサーフ(商品名)[7]が承認になるなど、ここ半年間でも固形がんについて新たに7つの新規抗がん剤が承認されています。医学が進歩し、新しい抗がん剤が使えるようになることは、大変好ましいことです。

 大切なことは、これらの薬剤で患者さんに新たな選択肢が増えたことになり、延命も可能になってきたことは確かですが、決してがんが治るようになってきたわけではなく、新たな抗がん剤を投与することによる副作用が生じますし、またいずれの時期にがんは再び悪化することは確実であるということです。

 われわれがん治療医は、単に「新しい薬剤が承認されたので、治療をしましょう」と言うだけでなく、積極的治療には限界があることも患者さんにお話ししなくてはなりません。また、積極的治療をしないという選択肢についても、患者さんと話し合いをしなくてはならないと思います。その話し合いというのはとても大切なことと思います。ただし、単に「治療の選択肢だけを話し、患者さんに決めさせる」だけというのはあまりお勧めできるやり方ではありません。インフォームドコンセントを実行しようとするとき、医師は治療の選択肢を説明し、後で患者さんに選択してもらうというのは、良いように思われるかもしれません。実際の医療現場では、よく行われていることのようです。

 しかし、患者さんの側からするとどうでしょうか。「自分で決めろと言われても、難しくて分からない」「化学療法を続けると体がボロボロになってしまうのでこのまま続けるのも不安だし、かといってやめるのも不安で決められない」というように思う方も多いようです。

 また、医師が一方的に、「抗がん剤を止めることを勧めます。余命は○カ月です。後はホスピスを勧めます」と言うのはいかがでしょうか。このようなやり方は、がん専門病院に多いようですが、言われた患者さんの反応としては、「とてもショックだった。こんなに元気なのに余命宣告され、とても信じられないし、ホスピスも受け入れられない」「私は死亡宣告を受けました。なぜ、このように言われなければならないのでしょう」などと思われる方もいるようです。

 上記の例に欠けているのは、やはり患者さんとの「対話」「コミュニケーション」だと思います。進行がん患者さんとの対話やコミュニケーションは難しいものですが、腫瘍内科医の大切な仕事の一つです。

 進行がん患者さんとの対話については、最近では、アドバンスト・ケア・プランニング(advanced care planning;ACP)や、エンド・オブ・ライフ・ディスカッション(end of life discussion)が重要であるなどと言われることがありますが、アメリカ臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology;ASCO)でも、「治療医は、化学療法ができなくなってきてからでなく、進行がんと診断されたときから、治療の目的(治癒でなく、より良い共存)、ホスピスケアについての情報提供、(余命告知でなく)予後について話し合うべきである」と勧めています[8]。また、末期がん患者さんのQOLにプラスの影響を与える要素として、最後まで治療医(オンコロジスト)と良好なコミュニケーションがあることが挙げられ、エビデンスが示されています[9]。

連載の紹介

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日経メディカルブックス『がん診療UP TO DATE』の著者陣によるリレーエッセイです。がん治療に関する最新の話題や、日常診療の中で遭遇したエピソードなどを、自由な形式で綴ります。

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