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アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)2014レポート
肺がん領域の薬物療法、現在と未来

2014/07/29
久保田馨(日本医科大学付属病院化学療法科)

 アメリカ臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology;ASCO)は、1964年にシカゴで産声を上げて以来、今年で50周年になります。プレジデンシャルアドレスでは、Dr.Hudisが「サイエンスと社会:50年後」というタイトルでプレゼンテーションを行いました。過去50年のアメリカ社会の歴史を振り返り、今後50年に向けてintention (意志)の重要性を強調していました。

 ASCOはプロフェッショナルな腫瘍学集団であり、そのmission(使命)は、研究、教育、予防、質の高い患者ケアを提供し、がんを克服することにあります。今後50年に向けて、ASCO会員が持つべき意志とは何か。Dr.Hudisが強調したのは、サイエンスの進歩を社会の利益につなげること、すなわち社会正義です。この実現のために、連邦予算の0.1%に過ぎないがん研究に関する予算の増額、医療アクセスの改善を挙げました。

 また、近年アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration;FDA)から承認を受けた抗腫瘍薬剤は極めて高価格です。Dr.Hudisは、「このような高価格を考え直さないと、長期には継続不能」という、ある製薬大企業のCEOの言葉を引用し、「価格と価値」の観点から患者ケアにおける「価値」を明確にする必要性について論じました。そのほか、タバコに次ぐ発がんの脅威として肥満を挙げ、モバイル情報技術の進歩を医療の質改善に生かすべきだとしました。

 わが国では、科学研究倫理に関する重大な事件が立て続けに発覚し、社会問題となっています。ASCO 2014でも「臨床試験の透明性、データのアクセス」に関する教育セッションがありました。2013年にはFDA、欧州医薬品庁(European Medicines Agency;EMA)が共に、個人情報を秘匿した上での患者個々のデータを求める草稿を発表しています。今後ますます、透明性の確保と社会への説明責任が求められることになるでしょう。

 上記を踏まえて、肺がん領域における報告を見ていきましょう。

IV期非小細胞肺がん(NSCLC)
1)上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)
 遺伝子変異(mutation;M)陽性(+)は、わが国では非小細胞肺がん(non-small cell lung cancer;NSCLC)患者の約30%に認め、上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor;EGFR)のチロシンチナーゼ阻害剤(tyrosine kinase inhibitor;TKI)が肺がんによる症状・予後を顕著に改善します。

(1)第3世代EGFR TKI
 第3世代EGFR TKIsに関するいくつかの報告がありました。CO-1686、AZD9291、HM61713は、前臨床試験において、EGFR M+と共にTKIsに対する耐性メカニズムの一つであるT790 M+に有効性を示す経口剤です。EGFR M+で、EGFR TKIによる前治療歴がある患者を対象に試験が行われました。

 CO-1686では、治療域の投与量を受けた患者40人中、無増悪生存期間(progression-free survival;PFS)中央値には達しておらず、12カ月を超えると推測されています。AZD9291では、T790 M+群107人中奏効割合(OR)は64%、T790 M陰性(-)群50人中ORは22%でした。これら3剤の特徴は、これまでのEGFR TKIsに比較して毒性が軽度なことです。肺障害などについては今後の検討が必要ですが、皮疹は明らかに軽いようです。

 AZD9291については、今後、T790 M+患者を対象とした試験が計画されています。CO-1686については、未治療EGFR M+患者を対象にエルロチニブとのランダム化第II/III相試験、EGFR TKIs既治療のT790 M+患者を対象に化学療法とのランダム化第III相試験が予定されています。今後の臨床開発が強く期待される薬剤です。

(2)第2世代EGFR TKI
 第2世代EGFR TKIであるアファチニブは、シスプラチン+ペメトレキセド(LUX-Lung 3)、シスプラチン+ゲムシタビン(LUX-Lung 6)との比較試験で、OR、PFS、QOLの有意な改善が示されています。この2つの試験の統合解析結果が今回報告されました。

 エクソン19欠損変異(Exon 19 deletion;Del19)とL858R M+の患者631人を対象として行われた全生存期間(overall survival;OS)の解析では、生存期間中央値(median survival time;MST)がアファチニブ群27.3カ月、化学療法群24.3カ月(HR=0.81、95%CI:0.66‐0.99、P=0.0374)と、アファチニブ群が良好でした。変異部位別の解析では、Del19群のMSTがアファチニブ群31.7カ月、化学療法群20.7カ月(HR=0.59、95%CI:0.45‐0.77、P=0.0001)と、大きな差を示しました。逆にL858Rでは、アファチニブ群のMST 22.1カ月に対し、化学療法群では26.9カ月(HR=1.25、95%CI:0.92‐1.71、P=0.1600)と有意差はないものの、化学療法群が良好な傾向でした。

 これまで行われた第1世代EGFR TKIsと化学療法との比較試験では、OSに差を認めていません。今後、Del19+患者に対しては、アファチニブが重要な役割を果たすことになるでしょう。L858Rについては、両群間に有意差はないものの、化学療法先行の方が良いのか、今後の検討課題です。

(3)EGFR TKI+ベバシズマブ
 EGFR M+初回治療患者を対象に、わが国で行われたエルロチニブ単剤(E)とエルロチニブ+ベバシズマブ併用(EB)のランダム化第II相試験では、ORには各群間に差を認めませんでしたが、PFSはE群9.7カ月、EB群16カ月(HR=0.54、95%CI:0.36‐0.79、P=0.0015)と、EB群が良好でした。しかし、QOLは、有意差はないものの、EB群がやや不良な傾向でした。

 本試験結果は第III相試験に進むには十分なものと考えられますが、発表者の話では第III相試験は計画されていないとのことでした。何のために行われた試験なのか理解に苦しみます。

連載の紹介

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