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がん診療UP TO DATE トピックス

アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)2014レポート
医療情報を共有するソーシャルメディアの可能性

2014/06/19
後藤悌(東京大学大学院医学系研究科呼吸器内科学)

ASCO内の展示場。撤収時の様子ですが、Patient Advocacy Pavilionの奥には、製薬会社などのブースやポスター展示場が広がっていました。

 アメリカ臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology;ASCO)の年次総会は、例年シカゴで開催されます。開催期間中、街はASCOムード一色です。市内の各ホテルからのシャトルバスが参加者を巨大な会議場へと運びます。

 会議場もさることながら、展示場も東京ドームの5倍もの面積があり、会場内には厚い絨毯で区画された各製薬会社や検査会社のブースが所狭しと立ち並びます。Patient Advocacy Pavilion(患者支援の展示館)は、展示場に入ってすぐ左手に位置します。その大きさは、日本の学会展示場の全体と同じくらいでしょうか。

 臨床腫瘍学の歴史は、患者が動かしてきました。乳がん治療の主流は、1890年代から100年もの間、根治的乳房切除術でした。根治的乳房切除術と単純乳房切除術を比較したNSABP-B04試験が提唱されたのは1971年ですが、この立案には患者からの後押しがありました。『沈黙の春』の著者であるレイチェル・カーソンもその一人です。患者が試験の結果を求め、参加したいと思うことが、臨床研究の必要条件です。ASCOには、このような患者中心の風土があります。

 Patient and Survival Care のプログラムは、乳がん、肺がんなどと分類された24のセッションの一つです。抗がん剤の支持療法のほかにも、妊孕性温存、サバイバーシップ(ここで言うサバイバーとは、がんの長期生存者という狭義の意味ではなく、がんと向き合って生きていく人たち)といった教育セッションや、口演、ポスターなどがプログラムされています。また、Health Service ResearchやPractice Management and Information Technologyなどのセッションでも、患者との接点を中心としたプログラムがいくつも用意されていました。

 今回は、日本ではまだ積極的に活用されているとは言いがたい、ソーシャルメディアについての話題を取り上げます[1]。

 ソーシャルメディアとは、個人や組織がインターネットを通じて情報発信することで、双方向的な会話をしたり、集団を作ったりする、すなわち社会的な交流を支援するためのメディアです。ブログやTwitter、Facebook、LINEなどが代表例でしょう。その特性は、「情報の伝達が速く、ネット上に保存され、発信した情報が相互作用し、増幅しやすく、後で検索できること」です(abstract ♯89205)。

 アメリカ国立がん研究所(National Cancer Institute;NCI)、ASCO[2]、アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration;FDA)、SWOG、ECOGといった臨床試験グループなどは、各種ソーシャルメディアに対応しています。実際、がんに関するTwitter上でのやりとりの回数は、2012年から2013年にかけて20%も上昇していて、4155人の医師によって8万2383回の情報が発信されました(abstract ♯e17644)。このような社会的状況から、FDAは2014年に、医薬品について双方向メディアを用いたプロモーションに関する指針書の草案を発表しています[3]。

 日本では厚生労働省がTwitterや Youtube,USTREAMなどを使っていますが、がん情報サービスなど日本の主だったがん情報提供サイトには、このような窓口は設けられていません。ソーシャルメディアには患者との接点が見出せない、ないしはそのような試みを危険とすら感じる医療関係者も多いのではないかと思います。なぜ、医療者がソーシャルメディアにかかわる必要があるのでしょうか? 今年のASCOの教育セッションでの答えは、「そこに患者がいるから」でした(abstract ♯89205)[4]。

 がんと診断された患者の最初の情報源はインターネットであり、アメリカでは多くの成人がソーシャルメディアを使っています。そこで、臨床研究についての情報提供を、これらの媒体で広めることが試みられました。臨床試験に参加するがん患者の割合はアメリカでも2~7%です[5]。この推進にソーシャルメディアを利用するという算段です。患者中心の医療という構想の模範となってきた乳がんや、希少がんの一つである骨髄腫において、患者のみならず医療者をも対象とした情報提供がTwitterで始まり、ほかのがん種へも広がっているのです [6]。

 医療の情報交換に特化したPatientsLikeMeSmart Patientsといったサイトもあります。これらの新しい交流の場は、がん情報を提供する新しい体制を作り上げました。どのように情報の信頼性を維持するか、どのように情報を規制するかが今後の課題です。現在のところ、ClinicalTrials.govなどのサイトに誘導することは可能ですが、さらなる情報提供には倫理委員会への申請が必要と考えられています [7]。

連載の紹介

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日経メディカルブックス『がん診療UP TO DATE』の著者陣によるリレーエッセイです。がん治療に関する最新の話題や、日常診療の中で遭遇したエピソードなどを、自由な形式で綴ります。

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