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認知症患者の抗がん剤治療で「意思決定」はどうする?

2014/05/08
永野悦子(聖路加国際病院看護部)

 高齢化社会になり認知症の患者ががんを併発することは珍しくなく、またその逆もあります。厚生労働省の報告によると、わが国の65歳以上の高齢者における認知症の有病率は8~10%程度と推定され、専門家の間ではすでに10%に達していると言われています。現に私の周囲のがん患者にも、認知症を有している方が増えてきているように思えます。

 80歳代後半のB細胞性非ホジキンリンパ腫の患者がリツキシマブ投与目的で入院しましたが、病識は全くなく、今いる場所も分かりませんでした。「この人に抗がん剤治療の適応はあるのか。安全に投与できるのか」と、私や周りのスタッフは疑問を抱き、不安に思っていました。案の定、初回はインフュージョンリアクションが起こり、患者は点滴静脈ラインを自己抜去してしまいました。その後は、家族の付き添いがあれば外来化学療法も可能と考えていたものの、家族の協力が得られず、残りの治療は日帰り入院で行い、すべての治療過程を遂行できました。

 先日も、60歳代の膵がんの認知症患者に医師が病名告知を行い、がん治療の提案を本人と内縁の家族に行いました。ADLも自立しており、説明時にはある程度内容を理解しているようで治療を希望したため、退院後は治療開始が可能と考えられたのです。しかし、翌日になって患者に説明内容を確認すると、「あと半年しか生きられないと言われたような…」といった調子で、病名はおろか説明を受けた医師の顔も覚えていませんでした。化学療法による疼痛緩和や延命効果は期待できるでしょうが、この患者に抗がん剤治療を勧めるべきかどうか、現在検討中です。

 認知症の患者に対する抗がん剤治療が難しい要因として、例えば以下のことが考えられます。

・治療内容の理解・同意が困難な場合がある。
・投与中の協力が得られず、安全に投与することが難しい。
・セルフマネジメントが困難である。
・身体症状の訴えが乏しい、もしくは伝えられない場合もあり、副作用や合併症などの対処が遅れる危険性がある。
・家族や社会支援のサポートが必要不可欠である。
・治療を受ける、あるいは続けることが経済的に難しい。
・認知症を助長するおそれがある。

 「服薬に介助が必要」「歩行可能距離が短い」「社会活動性の低下」は、「高齢者における化学療法のGrade3以上の毒性発症予測因子」にも挙げられています[1]。がんが進行しており終末期ならば、医師も抗がん剤治療を勧めないでしょう。しかし、終末期でもなく、有効性が期待できるかもしれず、さらに認知症症状が軽度や中等度の場合は、治療の是非が医師の裁量に任されることになります。責任重大です。

 また、上記の膵がん患者の場合、認知症以外でも親族関係や経済的なことなど問題は山積みでした。家族はいるものの疎遠で、内縁の家族と同居しており、現在はその同居人が患者のキーパーソンとなっています。同居人はとても協力的で、患者のがん治療のサポートもすると話しています。認知症があって患者本人の医療同意が確認できない場合は、基本的に家族に確認することになります。しかし、法律上、この同居人は医療同意の決定権を持てないのです。

 2000年に開始された成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などで判断能力が不十分な方に関して、その日常生活を法律的に保護するものです。「任意後見」と「法的後見」に分かれ、前者は本人があらかじめ受任者と契約を交わし、後者は本人の判断力が不十分な場合に家庭裁判所が後見人を選任します。この後見人を置く申し出が可能なのは、本人、配偶者、四親等以内の親族、市区町村、検察官などです。被後見人(本人)の診断書を提出し、後見人の候補を選出したのち、家庭裁判所によって選任されることになります[2]。

連載の紹介

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