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がん診療UP TO DATE トピックス

腫瘍内科医として実践する日々の心配り

2014/02/20
五味大輔(信州大学医学部附属病院 信州がんセンター)

 腫瘍内科医として私は日々どのように心がけているかについて、これから腫瘍内科医になろうと考えている医学生や研修医の皆さんへ向けて記したいと思います。やや偏った面もありますし、正解がない問題もありますので、異論を持たれる箇所もあるかと思います。ご容赦ください。

 私が亀田総合病院の腫瘍内科で後期研修を始めた最初の2年間は、科内の人数も少なく、思いのほか大変でした。外来の後に、各病棟に分散している患者さんの診療を行い、カルテを記載して、翌日の外来予習が終わると日付が変わっていることはよくありました。

 夜間や休日も病棟・救急外来から頻繁にコールがあり、診療を行いました。幸い、2週間に1回の土日は完全オフだったので、なんとか体調も崩さず仕事が続けられました。体力的にも精神的にも余裕はありませんでしたが、夜間の病棟・救急外来のコールは、たとえ深夜の午前3時でも自分の経験値を蓄える貴重な機会と考えることにして、身体診察も手抜きをせずにしっかり診療をしようと前向きな気持ちで頑張りました。この2年間の経験が、臨床医としての自分の自信になっています。

患者さんやご家族への説明は手を抜かず、真摯に
 抗がん剤治療の説明にあたっては、投与時間や投与間隔、どのくらいのタイミングで画像検査をするかも一緒に伝えます。抗がん剤の副作用は多岐にわたるので、なるべくメリハリを付けるよう心がけています。特に、「頻度の高いもの」と「頻度は低いが重篤なもの」については詳しく。例えば、ゲフィチニブでは、頻度の高い副作用として皮膚障害と下痢、重篤な副作用として間質性肺炎を含む肺障害を重点的に説明します。また、肺炎を疑う症状としてどのようなものがあるか、つまり息切れや咳、発熱が出る可能性を話します。これらが出たら、夜間でもすぐに連絡するように伝えます。

 予後に関しては、生存曲線を見れば分かるように、目の前の患者さんがどのくらい生きることができるのか、ある程度の幅を持たせずに予測することは非常に困難です。そのため、「余命は、あと○カ月です」などと具体的な数字は言わないことが多いです。根治は難しいこと、一部のがんを除いて5年以上の長生きができる可能性は極めて低いこと、抗がん剤が効かず病気の進行が速ければ予想外に短いこともあり得ることを説明します。患者さんから質問があれば、生存期間中央値や5年生存率を伝えることはありますし、がんの進行が速く深刻な状態の場合は、時に厳しい話をすることもあります。

 また、病気が進行するとどういう症状が出てくるのか、何が不自由になるのかについては、初診のときから徐々に説明します。腹膜播種の患者さんでは、将来的にどんな合併症が予想されるか、具体的には腹水貯留により穿刺・排液が必要になったり、腸閉塞により人工肛門造設が必要になったり、経口摂取が困難となり高カロリー輸液が必要になったりする可能性を説明します。腹膜播種やリンパ節腫大などにより、片側の尿管狭窄をきたして水腎症となっている患者さんには、もう一方の尿管狭窄で腎後性腎不全となる可能性があり、それに対しては尿管ステント留置や腎瘻造設を行う必要があることを伝え、尿量が少なくなれば連絡をもらうようにします。

 抗がん剤を投与しても効果がなく、病状がどんどん進んでしまう患者さんもいます。もちろん、抗がん剤治療の開始前に、腫瘍縮小の効果を得られる確率や、逆に治療が効かずに病気が進んでしまう可能性もあることを説明しています。しかし、患者さんやご家族の中には、つらい思いをしてまで抗がん剤治療をしているのに、ちっとも良くならない、治療をしているのに悪くなるばかり、これでは何のための治療か分からないと憤慨される方もいます。

 もちろん、われわれも良くなってほしいと思いながら治療を行っているわけです。抗がん剤の効果があるかどうかは確率の問題であり、標準的な治療を行っている限りは、医療者の努力や知識の量とは無関係だと思います。しかし、結果がすべてなので、治療が良い結果に結び付かないのはやはり心苦しいものです。患者さんやご家族も、最善の治療を行っていること、医療者が手を抜いているわけではないことはよくご理解いただいていると思いますが、思い通りに良くならない、うまくいかないことによる負の感情は、しばしば医療者に向かってきます。

 このように理屈では分かっていても、感情的に納得いかないという場合は、その感情に対して共感し、傾聴するよう心がけています。「私たちも○○さんの悪い細胞に抗がん剤治療が効かず、悔しいです。○○さんやご家族が治療の結果に納得できないのも当然だと思います。つらいですよね」。理屈でいくら説明しても、なかなかうまくいかないことが多いものです。治療結果に怒っている患者さんやご家族でも、繰り返し丁寧に病状を説明することで、必ず理解してもらえると思います。

連載の紹介

がん診療UP TO DATE トピックス
日経メディカルブックス『がん診療UP TO DATE』の著者陣によるリレーエッセイです。がん治療に関する最新の話題や、日常診療の中で遭遇したエピソードなどを、自由な形式で綴ります。

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