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患者さんから、逃げない

2014/01/30
西智弘(川崎市立井田病院かわさき総合ケアセンター腫瘍内科/緩和ケア内科)

 「患者さんから、逃げない」

 緩和ケアでは、まずこの心構えを持つことが、とても大切だと思っている。

 医師が、患者さんから逃げる?

 そんなこと、あるわけない、と皆さんは思うかもしれない。「私は患者さんから逃げたことなど一度もない」と言うかもしれない。ええ、そうでしょう。確かに、いつも皆さんは真摯に、患者さんに向き合っているでしょうね。

 でも、真摯に向き合うからこそ、患者さんから逃げている、少なくとも逃げたくなる経験は誰だってあるはず。予後数日、昏睡状態の患者さん、心配して付き添う家族…そんな病室に、足が遠のいた経験が、きっとあるはずなんです。行っても、何もできない。家族には「先生、どうなんでしょうか?」と真剣に問われる。でも、何もできない。

 患者さんの胸に聴診器を当て、点滴の滴下を見、尿道カテーテルから尿が出ていることを確認し、「血液検査の結果は変わりありませんでした」とか「尿はしっかり出ていますよ」とか言う。

 ほら、逃げている。

 予後数日の方に対して、医師ができることは、血液検査や尿量のチェックだけなのだろうか。患者さんが元気なときは病状説明や検査説明を30分もベッドサイドでしていたのに、死にゆく患者さんの傍らには5分もいることができない。「苦しい」と患者さんが言っていても、それに対して患者さんに寄り添う、ケアをする、というのではなく、「とりあえず」「その場しのぎの」治療や検査をする。それも、ある意味一種の逃げだと思う。

 入院だけではなく外来についても同様のことは言える。私が緩和ケアを専門に研修しはじめた頃は、「癌患者さんの行き場所がなくなる」ケースが多くあった。これまでの主治医から見放され、緩和ケアを受けられる病院は見つからず。「癌難民」という言葉が流行ったりもした。

 それからもう5年以上がたち、もちろん全国的には昔より状況は改善してきている。しかし、まだまだそういった方々がいるのも事実だ。

 「緩和ケアに関する基本研修」()は相当数の医師が受講し、基本的な緩和ケアは多くの医師が提供できるように名目上はなっているはずなのに「自分は緩和ケア専門ではない。抗癌剤治療をしないならうちに定期通院する理由はない。何かあったら来てもいいけれど、早く緩和ケアが受けられる病院を探して転院しなさい」と言い放たれ、次回予約なしで終診、となる。「治療の適応がないから緩和ケアの病院に行きなさい」と門前払いされる、というケースもある。

 その一方で、緩和ケアを提供する病院に相談すると、「緩和ケアの外来は入院審査の外来だけで2カ月待ち、その後も入院まで外来通院はありません」と言われる場合もある。つまり、院外から紹介された患者さんを定期的にフォローするための外来を置いていない病院もあるということだ。

 「自分は緩和ケア専門ではない」と診療を拒否する一般科の医師、そして「緩和ケアの外来は入院審査の外来だけで2カ月待ち、その後も入院まで外来通院はありません」という緩和ケア側、双方に問題がある。

 日本緩和医療学会による「症状の評価とマネジメントを中心とした緩和ケアのための医師の継続教育プログラム」(palliative care emphasis program on symptom management and assessment for continuous medical education;PEACE)のこと。

連載の紹介

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