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がん診療UP TO DATE トピックス

「臨床現場の状況・環境」の視点からEBMを再考する

2014/01/23
大野智(帝京大学医学部臨床研究医学講座/早稲田大学先端科学・健康医療融合研究機構)

図1 EBMの概念図 Reference1)より引用

 科学的根拠に基づいた医療(evidence-based medicine;EBM)とは、「研究によって得られた科学的根拠=エビデンス(research evidence)、患者の価値観・意向(patients’ preferences and actions)、医療者の専門性(clinical expertise)、臨床現場の状況・環境(clinical state and circumstances)の4つを考慮し、より良い患者ケアのための意思決定を行うものである」とされています(図1)[1]。

 癌診療におけるエビデンスの集大成である『がん診療 UP TO DATE』(日経BP、2013)において、私は「補完代替医療とそのエビデンス」の項目の執筆を担当させていただきました。残念ながら、現時点では、補完代替医療の領域にはヒトを対象としたランダム化比較試験のエビデンスは非常に少ないのが現状です。そのため、補完代替医療を利用する/しないなどの意思決定において、医療者と患者とのコミュニケーションが重要であることについて解説しました。ですが、「臨床現場の状況・環境」については、紙幅の都合もあり、ほとんど触れていませんでしたので、今回のコラムで紹介したいと思います。

 「臨床現場の状況・環境」に関して考慮しなければならない点としては、「利益(治療効果)と不利益(治療に伴う副作用)のバランス」「治療にかかるコストや資源の利用」などが挙げられています[1]。

 「利益(治療効果)と不利益(治療に伴う副作用)のバランス」については、「癌」に限らず、様々な疾患に係る診療の現場で重要視されるようになりました。その一方で、「治療にかかるコストや資源の利用」についてはどうでしょうか? わが国では国民皆保険制度の下、比較的安価で医療を受けることができるため、国民や患者は医療にかかるコストのことはあまり気にしていないかもしれません。しかし、平成23年度の国民医療費が38兆5,850億 円に達し [2]、年々増加していることは、ご存知のことと思います。そこで、厚生労働省は、今後の医療制度の安定的な運営のために、中央社会保険医療協議会において費用対効果評価専門部会[3]を立ち上げ、医薬品や医療機器、医療技術を費用対効果の観点で評価する仕組みについて議論し始めました。

 補完代替医療の領域においても、適切なサプリメントの利用によって生活習慣病や骨粗鬆症などに関係する医療費を、年間で数億~数十億ドル削減可能であるとの報告書[4]が、アメリカの有用栄養物審査会(Council for Responsible Nutrition)から公表(2013年9月23日)されました。補完代替医療が、医療費削減に一役買うのではないかという興味深い結果です。

 一方で、癌の臨床現場における費用効果分析に基づく医療政策の話題としては、費用効果に応じて治療法の選択肢に制限がかかるといった事例があります。例えば、イギリスにおいて、国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence;NICE)は、高い価格に見合うだけの効果が得られないとして、Bevacizumab(商品名アバスチン)の大腸癌への「使用を推奨しない」というガイダンス[5]を2010年12月に公表しています。

 限られた医療資源を、どのように分配し、いかに効率良く運用していくかは、世界各国において喫緊の課題になっているようです。それを裏付けるかのように、医学研究の分野においても、費用効果分析の論文数が右肩上がりで増えてきています(図2)。

連載の紹介

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日経メディカルブックス『がん診療UP TO DATE』の著者陣によるリレーエッセイです。がん治療に関する最新の話題や、日常診療の中で遭遇したエピソードなどを、自由な形式で綴ります。

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