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大空に解き放たれて銀杏散る
Adolescent and Young Adult(AYA)Oncologyにおける緩和ケア

2014/01/16
森雅紀(聖隷浜松病院緩和医療科)

 “What would you do in my shoes?”(「あなただったらどうする?」)

 アメリカのあるがんセンターの静かな病室。30歳代前半のAさんから、こう尋ねられました。「この間まで普通にチーズバーガーを食っていたんだ。急に『末期の癌だ』と言われた。臨床試験かホスピスかって聞かれても、そんなの分からない」。

 ベッドサイドに付き添うAさんの妻と両親も、思い悩んだ表情で私を見ました。Aさんはスポーツマン気質で人脈も広く、若くして会社の経営に携わってきた方。結婚もしたばかりで、人生これからというところでの発病でした。初診時から私は緩和ケアチームの一員としてかかわってきました。入院当初、多発骨転移による痛みのためベッド上で体を動かすこともできませんでしたが、幸いにも集中的な多職種アプローチが奏功し、症状緩和は図れてきました。

 “Adolescent and Young Adult(AYA)Oncology”は比較的新しい概念です。“AYA”とは、一般的に15~39歳辺りの世代を指します。若年癌患者の生存率は、ここ数十年ほとんど向上していません。若年者の癌は独特な生物学的特性を有する可能性があることや、若年患者は特有の心理社会的なニーズを抱えていることも、この年齢層の癌治療を困難にする要因です。私たちは主に思春期から壮年期に至るまで、進学、卒業、就職、恋愛、結婚、出産、子育てなど様々な発達過程を通して自己形成を行っていきます。その一つひとつが人生における一大事ですが、「進行癌」に罹患すると、すべてが一変します。

 癌が進行すると、痛み、嘔気、呼吸困難、全身倦怠感、食思不振、せん妄など様々な症状が出現し、徐々に動けなくなっていきます。AYA患者における緩和ケアでは、通常の症状緩和に加えて、この世代特有の以下のようなニーズを理解しておくことが有用です[1~3]。これらは各々の成熟度や親への依存度によって異なります。

情報面
 治療の効果や副作用、食事や栄養、カウンセリングやサポートグループ、今後の療養場所や症状緩和のリソース、経済的な補助や子どもへの説明の仕方など、年齢相応の情報提供が求められます。どれほどの情報が必要か、誰に伝えればいいかを患者に直接確認することで、本人の自律性を尊重できます。

生活面
 病状の進行に伴い、身体的・経済的・感情的に両親に依存せざるを得ないことも少なくありません。休学や休職に伴う社会的な役割の喪失、ADL低下に伴う家族内での役割の喪失も不安の増悪につながります。

感情面
 一般的に、AYA患者では上の世代の成人患者に比べて心理的なつらさが強くなります。ボディイメージの変化などにより社会や友人から孤立することもあります。同世代の患者からのサポートがあっても、抗癌治療の中止、若すぎる死への直面化、在宅療養・ホスピスへの移行などにより、同世代患者からの「第2の孤立」を経験します。また、セクシュアリティーに関する不安や、今後の仕事、子どもへの遺伝、残される家族に関する将来の心配もこの世代で強くなります。

対人関係
 家族や友人への依存が強くなることで関係性が深まることもあれば、自分とは異なるコーピング方法を取る周囲との間に溝が生まれることもあります。従来の人間関係が希薄化したり親密な関係性構築が回避されたりすることもあれば、療養生活や内的成長を通じて新たな人間関係が構築されることもあります。病院内やホスピス内に友人・知人間で話せる場所を設けたり、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)などウェブ上で交流できる場を作ったりすることも有用です。

存続的な面
 「なぜ自分が末期癌に?」という疑問など、答えのない不安を抱えます。死への恐怖は、生きられるはずだった今後の年月に比例して強まるとも言われます。そうした不安や恐怖は、つらさの源であるとともに、人間的成長や人生への深い感謝の念につながるとも言われます。医療者も終末期についての話し合いには乗り出しづらいものですが、AYA患者は驚くほど丹念に死や終末期について考えていることもあります。どのような姿勢で終末期を迎えるかは人それぞれです。だからこそ、それを支える多職種介入が必要となります。

 一方、患者の家族も多大な心理社会的なニーズを抱えています。特に両親は、子どもを救えないことのつらさ、自己価値観の低下、終末期についての話し合いをすること/しないことの罪悪感、予期悲嘆などを抱くことがあります。早期から定期的なカウンセリングを行い、終末期への移行に際した心の準備を支えることで、家族が患者に寄り添いやすくなることもあります。その過程で、患者の死後に複雑性悲嘆をきたしうる危険因子(離婚、子どもが1人、精神疾患の既往、薬物乱用、困難な/疎遠な家族関係など)を同定し、適宜支援を提供することもできます。

連載の紹介

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日経メディカルブックス『がん診療UP TO DATE』の著者陣によるリレーエッセイです。がん治療に関する最新の話題や、日常診療の中で遭遇したエピソードなどを、自由な形式で綴ります。

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