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臨床研修プラクティス:実践!地域医療

第10回 ぼけちゃったんでしょうか?

2015/07/23
中川紘明(市立根室病院)、宮田靖志(国立病院機構名古屋医療センター)

 ※この記事は「臨床研修プラクティス」(文光堂)2010年1月号からの連載を転載したものです。

Episode10●おばあさんが急におかしなことを言うようになった

 田中さんのお母さんは、普段は漁の手伝いをして元気であったが、昨晩から急におかしなことを言うようになったため、田中さんは「うちのおばあちゃん、ぼけちゃったんだろうか?」と心配になり、彼女を新患外来に連れてきた。

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そのとき、何をどう考えたか?

研修医 「そんなに急に認知症になるものですかね…。でも、家族がそう言うならそうなのでしょうか…。認知症の程度を評価するために、長谷川式簡易知能評価スケールをやってみようと思います。」

指導医 「ちょっと待って。家族から『ぼけた』という訴えがあったときは、それが(1)いつからなのか、(2)具体的にどんな症状を指しているのかをしっかり確認しないといけないよ。それによって考える鑑別診断が変わってくるからね。例えば、発症時間が特定できるような場合は何を考える?」

研修医 「えっ、わかりません。」

指導医 「急にぼけた!という場合は、認知症よりも、まず、(1)脳血管障害、(2)一過性全健忘、(3)慢性硬膜下血腫、(4)せん妄、の4つを考えるんだ。」

研修医 「脳血管障害?麻痺がないのにですか?」

指導医 「そうだよ。麻痺のない脳血管障害もあるから気をつけよう。そのときは失語のタイプが手がかりになるよ。例えば、急に耳が遠くなったとか、何を話しかけても『はぁ?』と聞き返すのは何失語だったかな?」

研修医 「失語って、たくさん分類があって、全くわからないんです…」

指導医 「これはWernicke失語(感覚性失語)だね。耳はちゃんと聞こえているのに相手の言っていることを理解できない状態。つまり、知らない外国語で話しかけられているイメージだ。じゃあ、『あの~、その~』としか言わなくなったら?」

研修医 「……」

指導医 「Broca失語(運動性失語)だね。舌はちゃんと回るのに言いたいことを言えない状態。つまり、知らない外国語をしゃべろうとするイメージだ。失語のタイプで障害部位がおおよそわかるから復習しておいてね。」

研修医 「たしかに急にそうなったら、ぼけたのかと思いますよね。2つ目の一過性全健忘って何ですか?」

指導医 「急に発症する近時記憶の障害で、新しいことが全く覚えられず、逆向性健忘も伴うため、何度も同じ質問を繰り返して周りの人に気づかれるんだ。」

研修医 「なるほど。」

指導医 「最初の2つはそんなに遭遇することが多くないかもしれないけど、残りの慢性硬膜下血腫とせん妄はしばしば経験するものだから要注意だ。

研修医 「慢性硬膜下血腫って、片麻痺、歩行障害、意識障害、痙攣、頭痛が症状として多いんだと思っていました。」

指導医 「慢性硬膜下血腫は症状が多彩なので、この症状があれば慢性硬膜下血腫だとはなかなか言えないんだ。そして、高齢者では、頭部外傷歴がなくても慢性硬膜下血腫の可能性はあるので1)、急に記憶力が悪くなったらまず疑ってみることが重要だ。じゃあ、せん妄はどういうものだったかな?」

研修医 「急に落ち着きがなくなって暴れたり…。う~ん、うまく言えません。」

指導医 「軽度の意識混濁を背景に、見当識、認知機能、注意力が一過性に障害されて、症状が動揺するものをせん妄と言うよ(表1)。」

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