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60年前から改訂を重ねた脳波のバイブル

2022/04/12
田中 和豊

 これまで2回に渡って、脳波の波形分析の教科書を紹介してきた。今回は脳波の教科書の最終回として、脳波のバイブルと呼べる書籍を紹介する。それは、既に紹介した脳波の教科書と同じ著者らによる書籍で、大熊輝雄、松岡洋夫、上埜高志、齋藤秀光 著:『臨床脳波学 第6版』医学書院 2016年(分類:古典、推奨度評価:★、推奨時期:後期専攻医~)である。心電図に関しては、第51回で心電図のあらゆる知見を体系的にまとめた「完全決定版」があることを紹介した。脳波にも同様に原典のような書が存在する。それが本書である。

 本書の初版は1963年11月15日に出版されている。何と今から約60年前である! そして驚くべきことに、この700ページを超える脳波の大著を、故・大熊輝雄先生がほとんどお1人で執筆されているのである! 初版の実物を見ていないので、当時の正確な内容は不明だが、脳波の原理・検査法・歴史・分類と記載、正常脳波と異常脳波、そして、各種疾患別の脳波所見が百科事典のように記載されている第6版の内容から推察すると、当時も同じようなボリューム感だったのではないだろうか。

 今ではコンピューターのワープロ機能を使うことで長文の記載や修正は楽になった。図表はスキャンして取り込むこともできる。しかし、この時代は手書き原稿だったと考えられる。だから、改訂作業もすべてその都度余白に手書きで修正を加えたと思われる。それらの原稿を図や表とともにまとめて編集するには、どれくらいの労力が必要であったのか計り知れない。本書を執筆した大熊輝雄先生は、超人的な努力で改訂作業を進めたことが推測される。帯の見出しにあるように、本書が『大熊臨床脳波学』と呼ばれる理由が理解できる。

 第6版は、2005年秋頃に大熊輝雄先生が、弟子である松岡、上埜、齋藤の3先生に分担して改訂することを依頼されたそうである。しかし、2010年9月15日に大熊輝雄先生が逝去され、その翌年2011年3月11日に東日本大震災に見舞われて改訂作業が遅れ、本書の第5版が発刊された1999年11月から17年経過した2016年11月1日に第6版が発刊されている。

 本書の序に、「ここに改訂の完成をみることのなかった大熊先生のご霊前に本書第6版を捧げ、生前のご指導に感謝するとともに、ご冥福をお祈りいたします」と記載されていて、その日付が2016(平成28)年9月15日、大熊輝雄先生の7回忌とある。本書は、まさに脳波の権威とその弟子2代におよぶ60年間の脳波の知見の集大成なのである。

大熊輝雄、松岡洋夫、上埜高志、齋藤秀光 著:『臨床脳波学 第6版』医学書院 2016年(分類:古典、推奨度評価:★、推奨時期:後期専攻医~)

著者プロフィール

田中和豊(福岡県済生会福岡総合病院 総合診療部主任部長・臨床教育部部長)●たなか かずとよ氏。慶應大理工学部を卒業後、医師を目指す。94年筑波大医学専門学群卒業。横須賀米海軍病院、聖路加国際病院、アルバートアインシュタイン医科大、ベス・イスラエル病院などを経て、2012年より現職。

連載の紹介

医学書ソムリエ
良い医学書は良い海図のように、臨床の大海原の航海を確実に楽にしてくれるもの。しかし、数多く出版される医学書のどれを読んだらよいのでしょうか。本連載では、筆者の田中和豊氏が、忙しいあなたの代わりに様々な医学書に目を通し、「これは良い」と思ったものだけを紹介します。

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