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脳波の世界の扉を開けてくれた入門書

2021/09/06
田中 和豊

 前回は不整脈の教科書のついでにペースメーカーの教科書を紹介した。その理由として、筆者が自分自身で不整脈やペースメーカーについて学ばなければならないと痛感した逸話を紹介した。実はもう1つ、忘れられない逸話を思い出した。

 筆者がある病院で原因不明の意識障害患者を診察した時のことだ。血液検査で異常は見つからず、脳のMRI画像も正常で、脳波検査を行った後に腰椎穿刺を試みた。患者が高齢で腰椎が変形しており、うまく穿刺ができなかったので、念のため応援に脳神経内科のレジデントを呼んだ。そのレジデントは、患者の病歴説明を聞きながら、ベッドサイドに置いてあった脳波記録の用紙をパラパラとめくって見ていた。そうこうしているうちに幸い、腰椎穿刺がうまくいった。すると、その脳神経内科のレジデントはお役御免とばかりにおもむろに去ってしまった。

 ちなみに髄液検査の結果も正常であった。患者の意識障害の原因は不明のままだ。我々は応援で呼んだ脳神経内科のレジデントが、もちろん患者の診断にも協力してくれるものと思いこみ、彼からの連絡を待っていたのだが、なしのつぶてであった。後日、脳神経内科の主任部長に脳波記録を持っていって意見を聞くと、すぐさま「てんかん」と診断され、意識障害の原因が明らかになった。

 後から考えると、くだんの脳神経内科のレジデントはどうやら脳波の判読がうまくできなかったようなのだ。彼は脳神経内科のレジデントであるがゆえに、応援を求めた非専門医の我々に対して、「典型的な波形でないと読めません」とは言えなかったに違いない。脳波記録をパラパラとめくっていかにも波形を読んでいるそぶりをして、穿刺がうまくいったので、我々のコンサルテーションを放置したのであった。「私はあまり脳波に詳しくないので主任部長と相談します」と正直に言えなかったのだろう。

 この時、QT延長の患者にニフェカラント塩酸塩(商品名シンビット)を投与したり、ペースメーカーの電池切れの患者を他院に送った循環器内科医のことを思い出した。脳波も脳神経内科医に丸投げせずに、ある程度は自分自身で判読しなければならないと考えさせられた経験である。しかし、それ以後、脳波の勉強をする機会はないまま過ごしていた。

 本連載では、長きにわたって心電図・不整脈・ペースメーカーの教科書を紹介しており、本来ならば次は胸部X線写真の教科書を紹介する予定だった。しかし、この機会に脳波を勉強しないと、自分は一生脳波が分からないままになるかもしれないと思うに至った。このような理由で、今回は予定を変更して脳波の教科書を紹介することとした。

 正直に言うと、脳波について門外漢の筆者は、教科書として何を選んでよいのか全く手掛かりがなかった。そこで脳神経内科の先生に何冊か推薦していただいて、その中で一番取っつきやすい教科書を選んでみた。それが、飛松省三 著:『ここに目をつける! 脳波判読ナビ 改訂第2版』 南山堂、2021年(分類:教科書、推奨度評価:★★★、推奨時期:後期専攻医~)である。

著者プロフィール

田中和豊(福岡県済生会福岡総合病院 総合診療部主任部長・臨床教育部部長)●たなか かずとよ氏。慶應大理工学部を卒業後、医師を目指す。94年筑波大医学専門学群卒業。横須賀米海軍病院、聖路加国際病院、アルバートアインシュタイン医科大、ベス・イスラエル病院などを経て、2012年より現職。

連載の紹介

医学書ソムリエ
良い医学書は良い海図のように、臨床の大海原の航海を確実に楽にしてくれるもの。しかし、数多く出版される医学書のどれを読んだらよいのでしょうか。本連載では、筆者の田中和豊氏が、忙しいあなたの代わりに様々な医学書に目を通し、「これは良い」と思ったものだけを紹介します。

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