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ペースメーカーのお勧め書籍
電池切れで心不全を起こした症例から学んだ教訓

2021/05/31
田中 和豊

 「心電図」の教科書の紹介が長く続いたので、前回は「胸部X線写真」をテーマにするつもりだったが、予定を変更して「不整脈」の教科書を紹介した。それなら、ついでにどうしても紹介したいテーマがある。それは「ペースメーカー」である。

 読者の方々は、こんなに脱線してなぜ早く、胸部X線写真に関する医学書の紹介に進まないのか疑問に思うかもしれない。実は筆者が脱線するのには理由がある。通常なら、医学生や初期臨床研修医レベルであれば、不整脈やペースメーカーの教科書を読む機会は少ないだろう。同様に総合診療や救急などのプライマリ・ケア領域でも、特別に興味がある人を除いて、循環器の専門医に紹介する必要がある患者さえ判別できれば、不整脈やペースメーカーを深く学ぶ優先度は低い。

 ところが、臨床経験を積むうちにどうしても「自分が不整脈やペースメーカーについて理解していれば、よりよい患者のマネジメントができたのではないか」と思う症例を経験することがある。そんなとき、勉強に役立つ医学書を探すことになる。

 前回の不整脈の教科書で述べたように、筆者は不整脈の体系的および実践的教育を卒後1年目の横須賀米海軍病院でのインターン時代にACLSの講習の中で受けた。この集中的なトレーニングのおかげでそれ以後、不整脈の診療で大きく困ったことはなかったし、実際に困ったら、全て循環器内科医にコンサルテーションしてお任せしていた。ところが、その後ある病院で救急医として勤務していたときに、たまたま薬物中毒によるQT延長のために心室頻拍が認められた患者を金曜日に入院させたことがあった。その病院では、筆者はその患者の入院までを担当し、それ以後の週末の病棟管理は当番の救急医に引き継ぐシステムであった。

 週明けにその患者がどうなったか、引き継ぎをした救急医に聞くと次のような話であった。筆者から引き継ぎを受けた救急医は、まず最初に患者が薬物中毒によるQT延長で心室頻拍が起こっていたので、循環器内科にコンサルテーションした。するとコンサルテーションを受けた循環器内科医は、何とQT延長による心室頻拍の治療に、シンビット(ニフェカラント塩酸塩)という抗不整脈薬の使用を推奨したそうである。この薬は心室頻拍や心室細動に適応があるが、QT延長症候群の患者には原則として禁忌とされている。

 循環器内科医の勧めに従ってシンビットを使用したところ、果たして患者は1時間に1回心室細動が起こり、そのシフトの救急医は救急車で運ばれた患者を診療しながら、問題のの患者が心室細動になるたびに病棟から呼ばれて除細動を行ったそうである。その後、患者は次のシフトに引き継がれ、新たに担当した循環器内科医が患者のシンビットを中止し、一時的にペースメーカーを装着して「overdrive pacing」を行ったところ心室頻拍は収まったという顛末であった。

著者プロフィール

田中和豊(福岡県済生会福岡総合病院 総合診療部主任部長・臨床教育部部長)●たなか かずとよ氏。慶應大理工学部を卒業後、医師を目指す。94年筑波大医学専門学群卒業。横須賀米海軍病院、聖路加国際病院、アルバートアインシュタイン医科大、ベス・イスラエル病院などを経て、2012年より現職。

連載の紹介

医学書ソムリエ
良い医学書は良い海図のように、臨床の大海原の航海を確実に楽にしてくれるもの。しかし、数多く出版される医学書のどれを読んだらよいのでしょうか。本連載では、筆者の田中和豊氏が、忙しいあなたの代わりに様々な医学書に目を通し、「これは良い」と思ったものだけを紹介します。

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