Cadetto.jpのロゴ画像

再び番外編1 和田敬先生をしのんで
30年ぶりに見る心電図の恩師の講演映像

2020/12/10
田中 和豊

 このコラムで心電図の書籍について紹介するのは前回で最後とお伝えした。今回は書籍そのものの紹介ではなく、番外編をお届けする。「心電図の書籍を10冊以上読破する」という挑戦テーマについて、改めて思い出させていただいた故・和田敬先生にまつわるエピソードを取り上げたい。

 最初に心電図の書籍を扱った第42回の記事で、筆者の恩師である和田先生のことをブログで紹介していた開業医の先生がいたことを記した。実は、2020年7月29日にその開業医の先生を訪問する機会に恵まれ、和田先生のことをお尋ねすることができたのだ。その方とは、博多で山本診療所を開業している山本哲郎先生である。山本先生は、和田先生が亡くなる直前まで親交がおありだったという。

 山本先生のお話によれば、今から4年前の2016年10月22日に、当時89歳だった和田先生が福岡に講演に来られていたそうだ。山本先生が世話人を務めている「臨床心臓病学研究会」という勉強会に講師として招かれ、「見逃しやすい3つの心臓病」というタイトルで講演されていた。後日、その講演のDVDを送っていただき、和田先生の貴重なお姿を拝見できた。

 筆者が和田先生から直接教えを受けたのは大学3年生の時(1990年)だったので、映像を通して実に30年ぶりの再会であった。スタイルは昔と同じく蝶ネクタイにダブルのスーツで、左胸のポケットにハンカチ、両袖にはカフスボタンというダンディーないでたちである。30年経つと、さすがに黒髪は白髪となって、お体は昔よりきゃしゃになられていたが、マイクなしで約2時間の講演を行っているお姿からは、89歳とは思えない昔ながらの体力と気力の充実ぶりがうかがえた。残念ながらDVDの録音状態が悪く、音声なしの動画に近い映像だったのが惜しまれる。

 和田先生は、昔と同じで長い両手を使ったジェスチャーを交えて話す独特の話し方であった。講演の後には、参加者からの質問の時間も設けられていて、実際に会場からの質問には昔ながらに黒板ならぬ白板(ホワイトボード)に板書したり、小道具を使って説明したりするなど丁寧に答えられていた。そして、最後には会場の聴衆を交えて楽しく談話するように終了していった。講演の冒頭で和田先生がおっしゃっていたが、先生はこの講演の1年前の2015年10月29日にも福岡で講演されていたのであった。

 講演タイトルには「見逃しやすい3つの心臓病」とあったが、主に胸心膜欠損症とEbstein病の2つの先天性心疾患を取り上げておられた。講演で使用したスライドは、先生が実際にご経験された症例で、筆者にも何となく見覚えがあるような気がした。もしやと思って、第42回で紹介した「TAKASHI WADA;Basic and Advanced Visual Cardiology. Illustrated Case Report Multi-Media Approach. Lea & Febiger, Philadelphia, 1991」(分類:参考書、推奨度評価:★、推奨時期:後期専攻医~)を見返した。するとやはり、スライドの心電図や胸部X線写真は、この書籍に収録された症例と同じものであった。

 しかし、講演で取り上げた疾患があまりにもマニアック過ぎる。「胸心膜欠損症」などという先天的疾患については、筆者は今まで見たことも聞いたこともない。Ebstein病も和田先生はWPW症候群と関連することを講義で教えられていたが、今まで筆者はWPW症候群の患者で基礎疾患としてEbstein病が発見された患者は経験したことがない。残念ながら、数少ない貴重な症例も経験している循環器内科専門医でなければついて行けそうにない内容であった。

著者プロフィール

田中和豊(福岡県済生会福岡総合病院 総合診療部主任部長・臨床教育部部長)●たなか かずとよ氏。慶應大理工学部を卒業後、医師を目指す。94年筑波大医学専門学群卒業。横須賀米海軍病院、聖路加国際病院、アルバートアインシュタイン医科大、ベス・イスラエル病院などを経て、2012年より現職。

連載の紹介

医学書ソムリエ
良い医学書は良い海図のように、臨床の大海原の航海を確実に楽にしてくれるもの。しかし、数多く出版される医学書のどれを読んだらよいのでしょうか。本連載では、筆者の田中和豊氏が、忙しいあなたの代わりに様々な医学書に目を通し、「これは良い」と思ったものだけを紹介します。

この連載のバックナンバー

この記事を読んでいる人におすすめ