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心電図の波形を理解するための良書
心臓の異常部位によって、各誘導にはどんな波形の変化が予想されるか?

2019/10/22
田中 和豊

 前回まで5回にわたって心電図判読方法についての良書を紹介してきた。今回からは心電図の波形を理解する良書を紹介したい。

 筆者は大学3年生のときに生理学で心臓の生理学を学習した際に、直接授業とは関係なかったが心電図の原理の本を1冊読んだ。この心電図の原理の本は特に教科書として指定されていたわけではなかったが、大学生協の書籍部で「ハーバード医学校の教科書」と書籍の帯に記載されているのを見て、ハーバードの教科書なら読んでみようかという軽い気持ちで読んだのであった。

 この本はおそらく現在では絶版で、もう書店で見ることはできないと思われる。この書籍には、心筋の電気生理の原理から、活動電位がどのように伝わり、その結果として心電図の波形にどう現れるのか、詳細に解説されていた。率直に言って読破するのはつらかった。この本はあくまで心電図波形を電気生理学的に解説した書籍で、読破したからといってすぐに心電図が読めるようになるわけではなかった。筆者はその頃に、和田敬先生の書籍と授業に出会い実践的な心電図判読方法を学んだので、それ以降はこの書籍のように心電図の波形を電気生理学的に詳細に解釈しなくても困ることはなかった。それはちょうど、輸液・電解質・酸塩基平衡を考えるのに、腎臓の尿細管各部位でのイオンの輸送をいちいち考えなくても困らないのと同じである。

 しかし、心電図を単に「機械的に」判読するだけではなく、「理解して」判読するためには、どうしても心電図波形の成り立ちをある程度理解している必要がある。第43回で、心電図を判読するためには、立体空間図形認識能力が必要であることを記載した。この回では言及しなかったが、12誘導心電図を立体的に解釈するために知っておかなければならない事柄として、「reciprocal change(別名mirror change;鏡像変化)*1」と呼ばれる原理がある。筆者はこの原理を和田敬先生の授業から習って以来、現在でも使用している。しかし、この「reciprocal change」と呼ばれる原理は書籍にほとんど記載されていないようなのだ。和田敬先生の著書『心電図のABC』でもこの「reciprocal change」という用語が出てくるのは、p.71「心筋傷害と こぶ 」の1カ所だけである。

 この「reciprocal change」という原理は、教えられればごくごく当たり前なのでわざわざ書籍に記載されることはほとんどなかった。しかし、筆者が留学していた当時の米国の医学生であれば現場で必ず習っていた事柄であった。実際に筆者も大学6年生の時に、米国マサチューセッツ総合病院の循環器内科で実習を行ったが、そこでも毎日回診で当たり前に「reciprocal change」を用いて心電図の判読が行われていた。

 この「reciprocal change」という原理を用いて心電図を読むと、心筋の傷害部位が明確に判別できる。つまり、心筋の傷害が虚血性変化によるものか、それ以外の非虚血性変化が原因なのか、もしも虚血性変化ならばその傷害部位はどこか、心筋の傷害部位は貫壁性か非貫壁性か、といった情報が読み取れるのだ。そして、この「reciprocal change」を用いた心電図の判読に冠動脈の走行の解剖学的知識を重ねることによって、冠動脈の責任病変部位の推定が可能になる。

 「reciprocal change」とは、心電図で水平方向の基線に関する線対称変化である反転変化である。別名mirror changeとも呼ばれていて、こちらの名称の方が有名かもしれない。しかし、mirror changeとはもともと垂直方向の垂線に関する線対称変化を意味する用語なので、心電図とは基線の方向が違う。だから、この用語は使用すべきではないと和田敬先生から教えていただいた。それ以来、筆者はmirror changeではなく「reciprocal change」と言い続けている。以前第31回「輸液の教科書」の回でスクリブナーの輸液と電解質の神秘を解き明かす魔法の言葉を紹介したが、これに対して「reciprocal change」は12誘導心電図を立体的に解き明かす魔法であるといえる。

 この「reciprocal change」を含めて、心電図の波形を臨床医向けにより実践的に解説してある書籍はないだろうか? そこで思い出したのが次の書籍である。

 今回紹介するのは、吉利 和、宮下 英夫 訳、Mervin J. Goldman, M.D. 著:『図解心電図学―心電図の読み方のコツ―』 金芳堂、1987年、改訂第12版(絶版)(分類:古典、推奨度評価:★、推奨時期:医学生~)である。筆者は研修医時代から存在は知っていたが、読んだことはなかった。今回アマゾンの古本で購入して読んでみた。

著者プロフィール

田中和豊(福岡県済生会福岡総合病院 総合診療部主任部長・臨床教育部部長)●たなか かずとよ氏。慶應大理工学部を卒業後、医師を目指す。94年筑波大医学専門学群卒業。横須賀米海軍病院、聖路加国際病院、アルバートアインシュタイン医科大、ベス・イスラエル病院などを経て、2012年より現職。

連載の紹介

医学書ソムリエ
良い医学書は良い海図のように、臨床の大海原の航海を確実に楽にしてくれるもの。しかし、数多く出版される医学書のどれを読んだらよいのでしょうか。本連載では、筆者の田中和豊氏が、忙しいあなたの代わりに様々な医学書に目を通し、「これは良い」と思ったものだけを紹介します。

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