Cadetto.jpのロゴ画像

診断と似顔絵の共通点とは?
臨床推論の良書 「直観」編

2016/02/19
田中和豊

 前回まで、「臨床推論」に気付く契機となる「省察症例集」、「臨床推論」の「理論」、そして、「臨床推論」の「原理」についての良書を紹介した。今回は臨床推論の「直観」に関する良書を紹介したい。

 前回に紹介した臨床推論の原理の教科書である志水太郎著:『診断戦略:診断力向上のためのアートとサイエンス』、医学書院、2014(分類:教科書、推奨度評価:★★、推奨時期:後期研修医~)の中の基本的診断戦略の章で診断プロセスについて述べられている。

 この書籍によると、診断のプロセスは「dual process model 二重プロセスモデル」といって、直観的思考(intuitive process;System 1)と分析的思考(analytic process;System 2)が相補的、協働的に作動する。そして、直観的思考は、スナップショット診断のように迅速で効率的で芸術的であるが、その反面バイアスに影響されやすく初心者には困難で熟練者が頻用する方法である。一方、分析的思考は、フレームワーク、アルゴリズムやベイズの定理などのように、網羅的診断方法で、分析的で科学的である反面、非効率で時間がかかることがあり、豊富な知識が必要な分、負荷も多く初心者に有用だが熟練者には敬遠されがちである。

 この直観的思考と分析的思考は、言い換えるとアートとサイエンスである。また、診断について別の表現をすれば、この連載の最初に筆者が述べたアナログ診断とデジタル診断と同等のものである。

 アートとサイエンスとかアナログとデジタルというと二律背反なものと思われる。しかし、アナログとデジタルは実は表裏一体のものであることが情報理論では数学的に証明されている。それは情報理論の根本原理で「シャノンの標本化定理」と言われるものである。

この「シャノンの標本化定理」とは、あるアナログ信号を一定間隔(最大周波数の2倍の間隔)以下でサンプリングしてデジタル信号に変換すると、変換したデジタル信号から元のアナログ信号が一意的に復元できることを示した衝撃的な定理である。

 言いかえると、サンプリング間隔を適切に設定すれば、アナログ信号とデジタル信号は適宜自由に変換可能で、その変換は一意的であるので何回も変換しても信号の本質は失われないということである。つまり、アナログ信号とデジタル信号は形は異なるが本質的には同等のものなのである。

 同様のことが量子力学にも言える。量子力学にはシュレーディンガーの波動力学とハイゼンベルクの行列力学がある。シュレーディンガーの波動力学では波動方程式を解いて解を近似して端数を落とす計算を何日間か続けると最終的な解に到達する。正に力ずくのアナログ計算である。一方、ハイゼンベルクの行列力学では演算子を用いることによって近似などせずすっきりと解に到達する。正にデジタル計算である。全く二律背反するように見えるこの2つの波動力学と行列力学はその後数学的に同値であることが証明された。

 アナログとデジタルが同値であるとすると、突きつめるとアートとサイエンス、あるいは、文系と理系という区分も実は表裏一体なものなのではないであろうか? このことは、歴史的に芸術家であると同時に科学者であった偉人が枚挙にいとまがないという事実からも明らかであろう。

著者プロフィール

田中和豊(福岡県済生会福岡総合病院 総合診療部主任部長・臨床教育部部長)●たなか かずとよ氏。慶應大理工学部を卒業後、医師を目指す。94年筑波大医学専門学群卒業。横須賀米海軍病院、聖路加国際病院、アルバートアインシュタイン医科大、ベス・イスラエル病院などを経て、2012年より現職。

連載の紹介

医学書ソムリエ
良い医学書は良い海図のように、臨床の大海原の航海を確実に楽にしてくれるもの。しかし、数多く出版される医学書のどれを読んだらよいのでしょうか。本連載では、筆者の田中和豊氏が、忙しいあなたの代わりに様々な医学書に目を通し、「これは良い」と思ったものだけを紹介します。

この連載のバックナンバー

この記事を読んでいる人におすすめ