前回まで2回にわたって、筋骨格系診察、すなわち内科的筋骨格系診察(リウマチ疾患診察)と外科的筋骨格系診察(整形外科疾患診察)についての良書を紹介した。今回は、神経学的診察および筋骨格系診察とともに臨床上非常に重要である皮膚診療の良書を1冊だけ紹介する。
総合診療外来や救急外来で診療を行っていると、皮膚を主訴とする患者さんは結構多い。皮膚を主訴とする患者の大部分は、蕁麻疹・薬疹・帯状疱疹というコモン・ディジーズである。これらの皮膚科コモン・ディジーズはその病変が典型的ならば他科の医師でも診察はそれほど難しくない。しかし、皮膚病変が典型例とやや異なる様相を示している場合、自信を持って診察を行うことができるだろうか? 筆者も含めて非皮膚科専門医には難しいと感じる症例も少なくないのではなかろうか?
なぜ皮膚診療は難しいのであろう? 一番の理由は、皮膚診療は採血検査の数値のようなデジタル情報で行うものではなく、皮膚病変の視診というアナログ情報で行うものだからであろう。皮膚科疾患が採血結果などの数値だけで診断ができれば、我々非皮膚科専門医の皮膚診療はもっと楽になるはずである。しかし、同じようにイメージ情報の画像を読影して診断する放射線診療よりも皮膚診療に対して苦手意識を持っている医師が多いのはなぜなのであろうか?
おそらく診断において比較対象とする視覚情報が正常か異常かの違いによるものであろうと筆者は考える。すなわち、放射線診療においては診断は正常画像と比較して診断が行われる。例えば、頭痛の患者の頭部CTで正常解剖にないhigh densityが認められれば診断は「脳出血」である。そして、「脳出血」の解剖学的な位置がわかれば「被殻出血」とか「小脳出血」とさらに詳細な診断が可能となる。ところが、皮膚診療では異常な皮膚病変があるというのは誰が見ても明らかなので、異常な皮膚病変が一体何なのかということが問題となる。つまり、皮膚診療はそれが蕁麻疹なのか湿疹なのかはたまたそれ以外の皮膚疾患なのかというように異常な皮膚疾患の中のどれなのかという鑑別診断が難しいのである。
あまたある皮膚疾患の中で、自分が診察している患者の皮膚疾患が一体どれなのかという診断をするのが皮膚科医の専門技能であるから、我々非皮膚科専門医が専門医と同じレベルで鑑別診断ができないのは致し方ない。とはいうものの、神経学的診察が神経内科医だけが行う特殊技能でないように、基本的な皮膚診療は皮膚科専門医だけの特殊技能ではないはずである。それならば、その基本的皮膚診療はどのように身につけたらよいのであろうか?
ここで我々が受けた皮膚科教育について振り返ってみる。大学での講義は皮膚科の先生が大量のスライドを提示してその皮膚所見と診断を述べるものであった。また、皮膚科のほとんどの教科書は教科書というよりは多数の病変写真を書籍にまとめた図鑑のように見える。こうした従来の皮膚科教育を受けた我々が皮膚診療をできない最大の理由は、(1)皮膚診療の方法を理解していないこと、(2)皮膚診療を身に着けていないこと――であると筆者は考える。つまり、我々は皮膚診療の原理も知らないし身に着けてもいないから苦手意識を持つのである。
病変の特徴を詳細に記述している教科書は珍しくないが、根本的な皮膚診療の原理をわかりやすく記載してある教科書は実は意外に少ない。その中で筆者がおすすめできるのが、宇原 久 著 『どう診る?どう治す?皮膚診療はじめの一歩 すぐに使える皮膚診療のコツとスキル』 羊土社、2013(分類:教科書、推奨時期:医学生~、評価:★★★)である。
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著者プロフィール
田中和豊(福岡県済生会福岡総合病院 総合診療部主任部長・臨床教育部部長)●たなか かずとよ氏。慶應大理工学部を卒業後、医師を目指す。94年筑波大医学専門学群卒業。横須賀米海軍病院、聖路加国際病院、アルバートアインシュタイン医科大、ベス・イスラエル病院などを経て、2012年より現職。

連載の紹介
医学書ソムリエ
良い医学書は良い海図のように、臨床の大海原の航海を確実に楽にしてくれるもの。しかし、数多く出版される医学書のどれを読んだらよいのでしょうか。本連載では、筆者の田中和豊氏が、忙しいあなたの代わりに様々な医学書に目を通し、「これは良い」と思ったものだけを紹介します。
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