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専門医だけが修得すべき特殊技能にあらず
神経学的診察の良書

2013/06/18

 前回は「身体診察」についての良書3冊を紹介した。今回は「身体診察」の一部である「神経学的診察」を独立して取り上げる。

 まず最初に筆者は「神経学的診察」は本来大の苦手である。その理由は、神経学的診察をするのが面倒くさいからである。「問診」と「身体診察」を系統的に行うだけで十分疲れるのに、その上「神経学的診察」などしようとはとても思えない。大体「神経学的診察」を最初から丁寧に行っていたら一体どれくらい時間がかかるのであろうか?

 時間だけでなく道具もいる。ペンライトや打腱器など使うので、なかったらどこかに探して取りに行かなければならない。また、患者を寝かせたり立たせたり、そして、歩かせたりしなければならない。こんなことをいちいちやるよりも、いっそのことCTとMRIを撮影してしまったほうが早いのではないか。

 それに神経学的診察を仮に汗水垂らしてやったとしても、肝心の神経病変がここだ!と自信をもって言えるわけではない。それならなおさらのこと神経学的診察などせずにCTやMRIをとったほうがよいのではないかと思ってしまう。

 しかしそんな中、神経内科専門医の先生が患者を診察して「この患者の病変はここにある」と診断し、その後、実際にMRIでその場所に病変が発見されるとムカつくものである。この「神経疾患の神経学的診察による部位診断」というのは簡単そうでなかなか難しい。筆者自身、これをある程度自信をもってできるようになったのは卒後10年以上経過してからだと思う。

なぜ神経学的診察の習得には時間がかかるのか
 修得にこれだけ長い年月がかかる理由は、神経疾患の神経学的診察による部位診断ができるためには、「神経解剖」「神経疾患の病態生理」「神経学的診察手技の修得」「神経診断学」「神経疾患の画像診断(CT/MRI)」、そして「脳血管の3次元的解剖」のすべてを有機的に理解することが不可欠だからであろう。そして、これらの諸領域がすべて有機的に結び付くためには、神経内科・脳神経外科・救急・放射線科などの診療科をすべてローテートしていなければなかなか難しいはずである。

 書籍も同様である。「神経解剖」「神経疾患の病態生理」「神経学的診察手技」「神経診断学」「神経疾患の画像診断(CT/MRI)」そして「脳血管の3次元的解剖」はそれぞれ別々の書籍に記載されている。そして、これら一連の領域に通じるためには、少なくともこれらの各領域の書籍を1冊ずつ読み込む必要があるのである。

 それならばこれらの領域を1冊にまとめた書籍はないのかと、かねてから思っていた。そのような書籍は、神経内科医・脳神経外科医・救命救急医・放射線科医などが協力しなければ書けないはずである。それを実現した理想的な書籍が、医療情報科学研究所 編集 『病気がみえる Vol.7 脳・神経』 Medic Media, 2011(分類:参考書、評価:★★、推奨時期:医学生~)である。

著者プロフィール

田中和豊(福岡県済生会福岡総合病院 総合診療部主任部長・臨床教育部部長)●たなか かずとよ氏。慶應大理工学部を卒業後、医師を目指す。94年筑波大医学専門学群卒業。横須賀米海軍病院、聖路加国際病院、アルバートアインシュタイン医科大、ベス・イスラエル病院などを経て、2012年より現職。

連載の紹介

医学書ソムリエ
良い医学書は良い海図のように、臨床の大海原の航海を確実に楽にしてくれるもの。しかし、数多く出版される医学書のどれを読んだらよいのでしょうか。本連載では、筆者の田中和豊氏が、忙しいあなたの代わりに様々な医学書に目を通し、「これは良い」と思ったものだけを紹介します。

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