前回まで診断学(アナログ診断学、デジタル診断学)・症候学・問診・コミュニケーションと、医療面接に関する良書を紹介してきた。今回からは実際の診察についての良書を紹介する。
今回は身体診察の最初に行うバイタルサインの観察と解釈についての良書を紹介する。
この「バイタルサイン」は患者の診断を考え、重症度を見積もり、治療方針を検討するための貴重な情報源である。にもかかわらず、残念ながら「バイタルサイン」を十分に理解している医師は少ない。実際、筆者が救急当直の場で研修医に、救急隊からの情報―患者の年齢、性別、主訴とバイタルサイン―を伝え、どのような疾患が考えられるかと聞いてみると、何も答えられない研修医がしばしばいる。
初期研修医は、鑑別診断などの症候学においてはまだまだ未熟なので、答えられないのは仕方がないとしても、せめてバイタルサインの解釈くらいはと思い、バイタルサインの解釈に絞って聞いてみても何も返ってこない。つまり、症候学も頭に入っていなければ、バイタルサインの解釈も全くできていないのである。
また、こんなこともある。時々、急性腹症などで緊急に徒歩で来院する患者さんを研修医と一緒に診察することがある。筆者が研修医に「血圧計ってくれる?」と言うと、その研修医は自分で血圧を計測するどころか離れたところにいる看護師にわざわざ声をかけて「看護師さ~ん、血圧計ってくださ~い!」などと言い出す。
それを聞いた筆者が「看護師さんが来るまで待ってられないから、先生が自分で計ってくれる?」と言って、その研修医に血圧を計らせると、なんとマンシェットの巻き方が分からない者、マンシェットは巻けても手動でどうやって血圧を計るのか分からない者、そして、自動の血圧測定器を患者さんに装着することはできたが、測定器のどのスイッチを押したらいいのか分からない者など、様々なのである。
中には自分で血圧が測定できないことを認めたくないのか、できるふりをして患者さんに血圧計を巻き血圧測定を試みるが、マンシェットに空気を何回送っても水銀柱が上がらずに、おかしいな、おかしいなという顔をして計測をずっと続ける者もいる。できないなら素直に「私はできないので教えてください」とか、「ちょっとうまくいかないので、代わってもらえませんか?」などと言えばよいのであるが、それも自分の高貴なプライドが許さないらしい。
そのような研修医は、「バイタルサインは看護師や救急隊が計測するものであり、医師の仕事ではないから自分は計測しなくてもよい」とでも思っているのであろうか? もし、バイタルサインの測定が、医師はやらなくてよい、あるいは、医師はやってはいけないものだとしたら、急患の診察では看護師が来るまで誰もバイタルサインの計測をできないことになってしまう!
苦言はこのくらいにして、本の話に入ろう。
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著者プロフィール
田中和豊(福岡県済生会福岡総合病院 総合診療部主任部長・臨床教育部部長)●たなか かずとよ氏。慶應大理工学部を卒業後、医師を目指す。94年筑波大医学専門学群卒業。横須賀米海軍病院、聖路加国際病院、アルバートアインシュタイン医科大、ベス・イスラエル病院などを経て、2012年より現職。

連載の紹介
医学書ソムリエ
良い医学書は良い海図のように、臨床の大海原の航海を確実に楽にしてくれるもの。しかし、数多く出版される医学書のどれを読んだらよいのでしょうか。本連載では、筆者の田中和豊氏が、忙しいあなたの代わりに様々な医学書に目を通し、「これは良い」と思ったものだけを紹介します。
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