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裸の王様とならないために
コミュニケーションの良書3冊

2012/10/22

 前回は「問診の良書」を紹介した。その時に、「我々は、『日常診療で患者が訴えている症状がどのような意味であるかを明らかにして、正確に理解する』ための一つひとつの作業を怠って、ついつい安易な検査に逃げてしまっているのである」と述べた。ここでいう「正確に理解するための一つひとつの作業」とは、すなわち「コミュニケーション」である。ということは、言い換えれば、「我々医師はコミュニケーション能力が乏しい」ということになるのではなかろうか?

 我々医師は、患者が訴えていることはほとんど全て理解している、と思っている。また我々医師は、患者に説明したことは、ほとんど全て理解されている、とも考えている。医師も患者も同じ日本人であり、日本で生活し日本語を使っているのだから、お互いが理解できて当たり前と思っているのである。

 しかし、この大前提は全く通用せず、単なる幻想に過ぎないということを「コミュニケーション論」は教えてくれる。筆者もご多分にもれず、つい最近までこの甘い幻想を抱き続けて、恥ずかしながら「コミュニケーション論」という言葉さえも知らなかったのであった!だが書店に行くと「コミュニケーション」と名の付いた書籍のなんと多いことか!

 ちまたにはれっきとした「コミュニケーション学」「コミュニケーション論」などの学問が存在し、ビジネスや医療関係、特に看護領域などで盛んに議論されているのである。この「コミュニケーション」について無知・無関心なのは、実は医師だけではないのか?

 しかし、医療職の中で孤立しがちな医師の中でも、先取的な医師はすでにこの「コミュニケーション」について深く勉強しているようである。実際、「コミュニケーション」はすでに「医学教育モデル・コア・カリキュラム―教育内容ガイドライン―平成22年度改訂版」のA基本事項の中に掲載されていて、医学部でも教えられているし、医師国家試験にも出題されている。特に、患者と対話する時間が長い「総合診療領域」で重要視されているようである。

 今回はこの「コミュニケーション」についての良書を紹介する。まず、「コミュニケーション」というものについて全く無知な者が最初に読むべき医学書として、杉本なおみ著 『医療者のためのコミュニケーション入門』 精神看護出版,2005(分類:教科書、評価:★★★、推奨時期:医学生~)を薦める。この医学書では、コミュニケーション学の基本的事項や基本用語が日常生活での具体例を通じて分かりやすく解説されている。この本を読むと、我々が普段当たり前に行っているコミュニケーションが、言語だけでなく非言語も含めた複雑な過程を経たものであることや、情報の発信者と受信者の間で誤解が生じる原因がよく理解できる。

著者プロフィール

田中和豊(福岡県済生会福岡総合病院 総合診療部主任部長・臨床教育部部長)●たなか かずとよ氏。慶應大理工学部を卒業後、医師を目指す。94年筑波大医学専門学群卒業。横須賀米海軍病院、聖路加国際病院、アルバートアインシュタイン医科大、ベス・イスラエル病院などを経て、2012年より現職。

連載の紹介

医学書ソムリエ
良い医学書は良い海図のように、臨床の大海原の航海を確実に楽にしてくれるもの。しかし、数多く出版される医学書のどれを読んだらよいのでしょうか。本連載では、筆者の田中和豊氏が、忙しいあなたの代わりに様々な医学書に目を通し、「これは良い」と思ったものだけを紹介します。

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