Cadetto.jpのロゴ画像

先生が私の生活の面倒を見てくれるのですか?

2015/06/19
堀輝(産業医科大学精神医学教室)

 「先生が私の生活の面倒を見てくれるのですか?」。45歳の男性患者は診察中、当然と言わんばかりにこう言いました。

 今回は復職をあせる患者さんについて、知っておくと役立つ知識を紹介します。
 
 この患者さんは10カ月前から通院しているうつ病の方でした。4月に課長に昇進。その後から気分が落ち込んだり、仕事のミスが増えたり、眠れなくなって来院したのでした。典型的なうつ病の症状であり、一度休んで様子を見たほうがいいと考え、休職の診断書を勤務先に提出させ、外来で経過を見ていました。

 うつの状態は休職前よりは良くなったものの、「今日は外出ができました」という日があれば、「家の手伝いをしたら疲れて、2日間ずっと寝てました」という日もある一進一退の状態。生活リズムも安定せず、午前11時頃に目が覚めて、夕方くらいからは趣味のパソコンに向かっているような状態でした。外来ではカウンセリングをしながら薬での治療も続けていました。

 「やっぱり朝が起きられなくて……」。生活リズムのアドバイスをしていたが、なかなかうまくいかない。そのような状態が続いていた矢先のことでした。

患者 先生、来週から復職するので「復職可能」の診断書を書いてください。
医師 えっ。まだ、状態が良くないからもう少し治療をしておいたほうが……。
患者 大丈夫です。もう戻ることに決まったので診断書を書いてください。
医師 不十分な状態改善だと、再発する可能性が高いので心配なんですよ……。
患者 もう戻らないと。うちには子供も2人いるし、お金が続かないんです。
医師 そうかもしれませんが、再発すれば、もっとお金がかかると思いますよ。ゆっくり治療しませんか。
患者 先生が私の生活の面倒を見てくれるのですか? お金がなくて、私の家はだめになってしまうんです。
患者の妻 お願いします。主人がしっかりしてもらわないと。私はずっと専業主婦だったんです。この通りです。

 医師はしぶしぶ、復職可能の診断書を書くこととなりました。

 そして、2週間後……。
「やっぱり駄目でした。朝が起きられなかったんです。会社も自主退職となりました」

著者プロフィール

堀輝(産業医科大学精神医学教室講師)●ほり ひかる氏。西井重超(産業医科大学精神医学教室助教・教育医長)●にしい しげき氏。日本で唯一の産業医学振興および産業医養成を目的として設立された産業医科大学にて、精神科産業医の育成、就労者の精神・メンタルヘルスの問題に取り組んでいる。

連載の紹介

日常臨床に使える産業医のノウハウ
患者が勤労者であれば、日常生活の多くを過ごすのは職場。診療を進める上で職場の情報を入手し活用することは非常に重要です。産業医ならずとも、産業医学の視点を取り入れることで日常診療の幅を広げられるというケースを紹介します。

この連載のバックナンバー

この記事を読んでいる人におすすめ