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Dr.西野の「良医となるための道標」

To err is human(過ちを犯すのは人間)

2014/12/15
西野徳之(総合南東北病院消化器センター長)

 To err is human, to forgive divine.

 この言葉を聞いたことあるかい?
 「なんすか? それ」
 ……いや、知らなくてもいいんだけど、意味はわかるだろう。

 “過ちは人の常、許すは神の心”

 最近医療の世界でもその重要性を問われている。というより医療の世界だからこそ大切なリスク・マネージメント(Risk management:危機管理)と並行して語られるべき要素なんだ。

 実は、この言葉を聞いたのはある講演会の時。母校の自治医科大学学長(当時)の高久史麿先生が演者だった。医療の世界で聞いたのはその時が初めてだったから、心に残っている。『間違わない』ことを前提にするのではなく、『人間は間違いを犯す』ことを前提に、それを早い段階で確実に察知して、大きな間違いに発展しないようなシステムの構築が大切ということさ。

 例えば飛行機では主翼のフラップ(下げ翼)は『フライ・バイ・ワイヤー(Fly by wire:ワイヤーを使って飛ぶ)』と言って、ワイヤーを張って直接動かしている。かつて油圧方式で稼働していた時期もあるのだけれど、油漏れで動かなくなった事故があったために駆動方式を変更したのだ。

 しかも、それを少なくとも2系統用意してある。ひとつのワイヤーが切れても、もう一方のワイヤーで動かす。もし間違いがあっても安全を担保できるというこのような考え方を『フェイル・セイフ(Fail safe)』という。すなわち、『間違いはあっても』『絶対に大きな間違いに発展しない』安全管理システムの構築さ。

 機械でも故障はある。ましてや『人間はもともと間違いを犯す存在』なわけだから、二重三重に予防線を張っておかなくてはならないのさ。

 そもそも『大きな間違い』というのは、ひとつの要因で起きることはないと言われている。なぜなら、多くの場合、誰かがその間違いに気づいてカバーできるから。『大きな間違い』というのは実は、勘違いとか、思い込みがいくつか重なることによって、初めて起きると言われている。だから、二重チェック、三重チェックの習慣付けをすることが必要になるのさ。

 加えて、個人の危機管理意識かな。誰かがやってくれると思っている職員の多い組織は脆弱だ。すべての職員一人ひとりが自分を、そしてお互いをinspireし合いながら仕事ができる職場は組織として盤石になるのさ。何を言いたいかわかるでしょう?

 「えっ?」
 君自身のモチベーションをしっかり持たなくてはいけないってことだよ! 今の君に何ができるか、何をしなくてはいけないか、目的意識と危機管理意識をしっかり自覚してくださいってことさ。

 「考えたこともなかったですけど、やらなきゃいけないってことですね!」
 そういうことです。

普通、患者が恨みに思うのは最初に犯したミスに対してではなく、さらにミスを重ねたことに対してである
――『ドクターズルール425医師の心得集』 福井次矢訳(南江堂)

 最近では医療安全に関する考え方が国際的にも変わりつつある。『人間が間違うのは仕方がない』。では、今後ミスを予防するために、改善するために、組織はどうすべきかということへの提言がWHOからなされた。

 このような提言は自分には関係ないと思ってはいけないよ。もちろんすべてを覚える必要はない。でも、医療という行為は常に安全性が担保されねばならない。それを病院という組織でシステム化してゆくべきだということ。医師など個人に責任を転嫁するのではなく、組織として、それを意識してゆくべきだということなんだろうね。

資料:WHO「患者安全のための世界協調(World Alliance For Patient Safety)」
「有害事象の報告とそれに学ぶシステムについてのWHOガイドライン草案(WHO DraftGuidelines For Adverse Event Reporting And Learning Systems)」(2005年)

 2005年に作られたこの草案では、成功する有害事象の報告システムの条件として以下の7つを明示している。

著者プロフィール

西野徳之(総合南東北病院〔福島県郡山市〕消化器センター長)●にしの・のりゆき氏。1987年自治医科大学卒。旭川医科大学第三内科、利尻島国保中央病院院長、市立根室病院内科医長などを経て2000年10月より現職。

連載の紹介

Dr.西野の「良医となるための道標」
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