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Dr.西野の「良医となるための道標」

がんばり過ぎこそ「医者の不養生」

2014/12/08
西野徳之(総合南東北病院消化器センター長)

 ちょっと熱っぽくて、今日の僕の動きは悪いかもしれない。勘弁してくれ。
 「風邪ですか?ちょっと声も風邪気味ですね」

 ここ1カ月、休みなしだからな。週末は学会や講演会、出張もあって30日以上連続勤務をしているから、さすがにちょっとこたえたかもしれない。若い頃はこれぐらい平気だったんだけど、歳のせいかな。

 「医者の不養生ですね」
 おいおい、それは自嘲的に言う言葉であって、君に言われたくはないな。
 「失礼しました」

 ま、でも実情はそういうことだけどな。かく言う君もほとんど休みはとっていないだろう?

 「休みでも回診に来るのは当たり前です。それに回診が終われば休みをもらっているので、平気です」

 そうか、泣かせることを言ってくれるじゃないか。でも、きちんと休みはとっていいんだよ。たまには彼女とデートしてあげないと、愛想を尽かされちゃうぞ。

 「それじゃあ、今週末は休みをください」
 OK!楽しんでおいで、僕がちゃんと回診しておくから。

 「でも、それじゃあ、今週末も先生は休みがないじゃないですか」
 大丈夫、回診してから休みにするから。オン/オフのけじめをつけていかないと、いつまでたっても実現しないからな。彼女によろしく言っておいてくれ。

 医師は基本的に皆、献身的に仕事をしている。忙しさにかまけてover workになっていることもよくある。巷で言うワーカホリック(Workaholic syndrome:work+alcoholicの造語)だね。しかも、たちが悪いことにそれを自覚していないことが多い。当たり前だと思って。

 実は母校の自治医科大学の卒業生の中には、仕事のしすぎで亡くなった先生が結構いるんだ。

 ある外科系の先生は、喘息の持病があったが、手術で手が震えないように気管支拡張剤(キサンチン系製剤)の服用を控えていた。その結果、重篤発作を起こして、窒息で亡くなってしまった。B型肝炎の患者さんの採血時に感染して、劇症肝炎で亡くなった先生もいる。当直中に連絡がつかないので、当直室の鍵を開けたら亡くなっていた先生は、解剖をしたら急性出血性膵炎だった。

 決して彼らが不養生であったわけではない。でも、自殺も含めて、労災に相当するような医師の死亡例は枚挙にいとまがない。

 自治医科大学の卒業生はへき地医療をしなければならないため、研修の機会が限られる。だから、特に研修期間にがんばりすぎる。そういう時に、『事故』が起きてしまう。君らも徹夜明けの次の日の仕事で、ちょっとしたミスってあるだろう?

 「たぶんないと思います」
 それは甘いな。もしかしたら、自分で知らないところで、ミスがあるかもしれない。たとえば、カルテの記載に誤字があったり、採血を入れようと思ったら、忘れていたとか。重大なミスではなくても、うっかりミスっていうのはあるかもしれない。

 「そう言われると……」
 人間は完璧じゃない。気持ちはがんばろうと思っても、体がついていかないこともあるんだ。いくら初心に返ってもがんばれないこともあるんだよな。だから、きちんと休憩をとる、休みをとることは必要なのだ。休みをとってリフレッシュすることでリセットできれば、また仕事に意欲がわいてくる。

 「そうですね」
 来週の君の働きに期待しているぞ!
 「はい!」

著者プロフィール

西野徳之(総合南東北病院〔福島県郡山市〕消化器センター長)●にしの・のりゆき氏。1987年自治医科大学卒。旭川医科大学第三内科、利尻島国保中央病院院長、市立根室病院内科医長などを経て2000年10月より現職。

連載の紹介

Dr.西野の「良医となるための道標」
今の臨床研修カリキュラムに足りないもの。それは医師としての心構えや倫理観、患者との接し方を学ぶことではないか? 研修医指導に情熱を傾けてきた著者が、「医師としてのあるべき姿」を熱く語りかける、『良医となるための100の道標』(日経BP)。その一部をご紹介します。
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