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Dr.西野の「良医となるための道標」

人生を逆算する

2014/11/10
西野徳之(総合南東北病院消化器センター長

 僕の出身は自治医科大学なので、卒業後にへき地医療に従事した。

 よく「へき地医療は大変でしょ?」って言われるんだけど、僕らはそれを望んでこの仕事を選んだし、実際やってみると楽しいものだよ。経験のない人にはよくわからないらしい。

 僕らが研修医の頃には今のような臨床研修制度はなかったが、僕は他科のローテーション研修をさせてもらった。4年目には、一人勤務の診療所で赤ちゃんの健診から、肺炎、胃潰瘍、心筋梗塞、癌の患者、お年寄りまですべての医療行為に携わらなければならないと思っていた。だから、自分の医師としての年次ごとの到達目標を常に意識しながら研鑽してきた。

 1年目では基本的な診療ができる。患者さんとのコミュニケーションが図れる。超音波検査が自分でできる。胃内視鏡検査が概ねできるようになる。

 2年目では胃や大腸のバリウム撮影と読影ができるようになる。大腸内視鏡ができるようになる。

 3年目では胃や大腸の内視鏡的ポリープ切除ができる。CTの診断ができる。

 このような目標を常に意識しながら、自分に未熟なところや足りないところを補足できるように研修してきた。

 実際、こうした時系列を患者に当てはめてみるとわかるだろう。進行胃癌や進行大腸癌の患者が来院したとする。逆算して、もっと早く来院すれば、治せたはずなのにと。だから、1年後の自分、2年後、3年後の自分をイメージして研修を重ねることで、具体的な目標を持つことができるようになるのさ。

 ことほど左様に到達点を先にイメージする方が、ことは成就しやすい。何かをしようと努力する時に、「いつかは」と考えていたら、たぶんそれは実現しない。いつまでにどのような形でと具体化することで、自分がしなければならないこと、越えなければならないハードルが見えてくるのさ。

 多くの人はそのハードルが見えないから、やっぱりだめだと諦めてしまう。まずはそのハードルを可視化することが先決で、次にそのハードルをどのように攻略するのかを考える。手を替え品を替えながら、打ち勝とうと努力する。実はその努力こそが、人を最大限に伸ばすのだ。

 たとえ到達点に行き着かなかったとしても、次に別のゴールを設定して、がんばると意外にあっさりできてしまうことがある。それは問題が簡単なのではなく、その前に努力して自分のレベルが上がっているからなんだ。最初にその問題に当たっていたならば、もしかしたら諦めていたかもしれない。

 逆算するのは人生だけではない。人生なんてあっという間に過ぎてしまうものさ。ナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』のように、“想い”があれば、それを実現することを考えるようになるものだ。すなわち、実現させるために何をすればよいかを考える人が結果を出せるということなのだと思う。

 だって、24歳で大学を卒業して、65歳を定年として想定すると、たった40年しか医師として働く期間はないわけでしょう? 脂ののった時期はもっと短い。

 だから、『命短し、恋せよ乙女』…じゃなくて、『青年老い易く、学成り難し』。

 どうすれば密度の高い人生を送れるのか。一遍にはできない。その思いを込めて一日一日を充実させて過ごすこと。30歳までにできること、やらなければならないことを考えておく。そして40歳までに……。人生を逆算することで見えてくるものがあるはずだ。

 日々を怠惰に流されて生きていくと、それなりの人間にしかなれないのさ。

 自分を高めたいと思うなら、人生に目標を持つこと!
 「はい」
 医師としてのライフスパンを考えておくのもいいだろう。

著者プロフィール

西野徳之(総合南東北病院〔福島県郡山市〕消化器センター長)●にしの・のりゆき氏。1987年自治医科大学卒。旭川医科大学第三内科、利尻島国保中央病院院長、市立根室病院内科医長などを経て2000年10月より現職。

連載の紹介

Dr.西野の「良医となるための道標」
今の臨床研修カリキュラムに足りないもの。それは医師としての心構えや倫理観、患者との接し方を学ぶことではないか? 研修医指導に情熱を傾けてきた著者が、「医師としてのあるべき姿」を熱く語りかける、『良医となるための100の道標』(日経BP)。その一部をご紹介します。
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