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Dr.西野の「良医となるための道標」

あらゆる可能性を排除しない

2014/04/14
西野徳之(総合南東北病院消化器センター長)

 あらゆる可能性を排除しないとはどういう意味かわかるかい?

 「いえ、ちょっと……」

 たとえば外来で患者が「胃が痛い」と訴えて受診したとしよう。鑑別疾患を考える。さあ10個言ってみようか。

 「胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、逆流性食道炎、胆嚢炎、総胆管結石、急性膵炎、膵臓がん、腎結石、腸閉塞、急性虫垂炎の初期像、心筋梗塞の下壁塞梗塞、あと……」

 もういいよ。すでに10個は挙がっている。淀みなく挙げられたな。ずいぶん成長したじゃないか! では、患者の病気はその中に必ず入っているか?

 「え? いえ、まだ診てないので……」

 仮定でいいのさ。だってもともと鑑別診断を列挙してもらう目的は、10個挙げてもらうことじゃない。診断を確定するための論理的方法論として、可能性のある病気を囲い込んでもらっているのだから。逆に、もしかしてその中に正しい病気が入っていなかったらって考えてごらん?怖いことでしょ?

 「はい、怖いです」

 まったくお門違いの診断をして、違う治療をしてしまうわけだから。それを巷では誤診と言うんだけど、知っているよね。だから、医師として間違いのない理論を組み立てなければならない。

 「はあ、なんか難しそうですね」

 要は、通常の鑑別疾患に挙がらない疾患の可能性もあるということを肝に銘じておくこと。めったに遭遇しない珍しい疾患がたまにあるということを頭の隅に置いておくだけでいい。

 たとえば、腹痛を訴えてきた患者を考えてみよう。炎症性腸疾患のクローン(Crohn)病患者なら、腸管穿孔。心房細動を基礎疾患に持っている患者なら、上腸間膜動脈(SMA)血栓症。便秘や麻痺性腸閉塞の患者さんだったら、S状結腸軸捻転やがん。若い女性なら子宮外妊娠。いずれもめったに診る疾患ではない。でも、その疾患の可能性に気づきさえすれば診断は難しくない。そして、絶対に見落としてはいけない。珍しい疾患ではあるが、医師を長くやっていると、何年かに一度は遭遇することがある。こういう症例に限って忘れた頃にやってくるものなのさ。『マーフィーの法則』ってやつかな。

 これらの疾患は、君が先に挙げてくれた通常の鑑別疾患の中には入っていないよね。当然、最初の鑑別疾患として考える疾患ではないのは僕らも同じさ。でも、「この患者はどうも変だな」って思った時には、僕らの頭の隅に用意してあるこれらの病態は、必ず鑑別診断の上位に挙がってくる。それが君ら研修医と僕ら指導医の違いかな。

著者プロフィール

西野徳之(総合南東北病院〔福島県郡山市〕消化器センター長)●にしの・のりゆき氏。1987年自治医科大学卒。旭川医科大学第三内科、利尻島国保中央病院院長、市立根室病院内科医長などを経て2000年10月より現職。

連載の紹介

Dr.西野の「良医となるための道標」
今の臨床研修カリキュラムに足りないもの。それは医師としての心構えや倫理観、患者との接し方を学ぶことではないか? 研修医指導に情熱を傾けてきた著者が、「医師としてのあるべき姿」を熱く語りかける、『良医となるための100の道標』(日経BP)。その一部をご紹介します。
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