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Dr.西野の「良医となるための道標」

鑑別疾患は10個挙げる

2014/04/07
西野徳之(総合南東北病院消化器センター長)

(イラスト:遊佐淳子)

 さて、次の患者のカルテを見てみようか。問診では患者は「胃が痛い」と言っているようだ。患者さんに診察室に入ってもらう前に、ディスカッションしておこう。まず、原因疾患として考えられる鑑別疾患を10個挙げてごらん。

 「はい。胃潰瘍、胃炎、十二指腸潰瘍……」

 あとは?

 「……」

 患者の話す言葉が常に正しい病態を伝えていると思うかい?

 たとえば心筋梗塞だって、下壁梗塞なら胃のあたりが痛いと感じることはあるはずだろう?

 「あっ! そうでした」

 大切なことは患者さんの訴えを、医師として理解しやすいように翻訳して理解することだ。だから、この患者さんの訴えは『心窩部痛』と置き換えて聞くべきなんだよ。

 「なるほど、わかりました」

 でも、間違っても、患者に「心窩部痛ですね」なんて専門用語で確認してはいけないよ。高圧的だと勘違いされて、それ以上の情報を引き出せなくなるかもしれないからね。『心窩部痛』と解釈するのは、あくまでも自分の頭の中だけにしておくこと。いいね。

 「わかりました」

 さて、続きを聞こうか。

 「えっ?」

 まだ3つしか言ってなかっただろう?

 「あ、はい。心筋梗塞。……逆流性食道炎?」

 うん、それもありだな。それから? 心窩部にある臓器には何がある?

 「胃、肝臓、胆嚢、膵臓……」

 だとすれば?

 「胆石、急性胆嚢炎! 急性膵炎、急性肝炎!」

 うん、うん。あとひとつ。

 「うーん」

 降参かい?

 今日は初めての外来だから、それぐらいでいいでしょう。

 ほかには、急性虫垂炎の初期像。痛みは心窩部から徐々に下に移動するって言うだろう? 腸閉塞だって、「お腹が張って痛い」という病態を患者は「胃が痛い」と言って来ることはあるんだ。尿管結石は背部痛、と短絡的に考えるのも間違い。患者によっては「お腹が痛い」、「胃が痛い」と訴えることだってあるんだよ。医療において大切なことは「すべての可能性を排除しない」ことなんだ。

 「わかりました」

 患者の訴えを聞いたら、まずは鑑別疾患を一〇個挙げる。肝に銘じておいてくれよ。ちなみに今回は初めてなので、それ以上は要求しないけど、慣れてきたら鑑別疾患は可能性の高いものから並べること。いいね。

 「はい」

著者プロフィール

西野徳之(総合南東北病院〔福島県郡山市〕消化器センター長)●にしの・のりゆき氏。1987年自治医科大学卒。旭川医科大学第三内科、利尻島国保中央病院院長、市立根室病院内科医長などを経て2000年10月より現職。

連載の紹介

Dr.西野の「良医となるための道標」
今の臨床研修カリキュラムに足りないもの。それは医師としての心構えや倫理観、患者との接し方を学ぶことではないか? 研修医指導に情熱を傾けてきた著者が、「医師としてのあるべき姿」を熱く語りかける、『良医となるための100の道標』(日経BP)。その一部をご紹介します。
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