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医者だとバレたくない

2017/07/25
織田うさこ

 出勤してロッカールームに入ると、40代後半のベテラン看護師さんが鏡を見つめて眉をひそめています。

「朝からコワイ顔をして、どうしたんですか?」
 尋ねると、彼女は無言で頭を指さしました。
「根元がね、真っ白なの」
「……本当だ、結構たくさん白髪がありますね!」
 すると、彼女はため息をつきながら、
「いいかげん、美容院に行かなきゃいけないんだけど、嫌なのよ」
「何で?」
「面倒だから……」
「そんなに面倒ですか? カットとカラーだったら2時間くらいで終わるでしょ」
「違うの。美容師さんのどうでもいい話に付き合うのがとにかく苦痛で苦痛で仕方ないのよ。『話しかけてくるな!』って、毎回ものすごくにらみつけるのに止まらないのよ」。

 雑誌を読む(フリ)、寝る(フリ)などの常套手段も効かないらしく、話しかけられるのが心底苦痛だそうです。
「しかもね、この間、話の流れで看護師ってバレたのよ! それから、余計に行きたくなくなった」
 すると、私たちの会話を聞いていたほかの看護師や女性医師が、会話に入ってきました。
「それ、めっちゃ分かる! 自分の職業、バラしたくない」
「看護師ってバレたら、そういう目で見られるもんね」
「私も医者って絶対言わないよ。健康相談とかされたら面倒だもん」
 その場にいた全員、看護師や医師であることを、病院以外の場では知られたくないという意見でした。ちなみに私も同意見です。

 なぜみんな、医療関係者だとバレたくないんだろう? いや、バレたくないとは言いながらも、新幹線や飛行機の中で急病人が出たら、きっとほとんどの人が医療関係者であることを名乗り出て、手助けにいくでしょう。かくいう私も、仕事と関係ない飲み会で誤嚥した人をハイムリック法で吐かせ、感心されたことがありました。でも緊急の場合じゃなければ、医者であることは話したくないなぁと思っています。

著者プロフィール

織田うさこ(皮膚科医・内科医)●市中病院での初期研修修了後、皮膚科医として勤務していたが、必要に迫られて、内科も勉強しながら従事している。家庭医として地域医療に貢献。何事にも必死になりすぎるタイプ。

連載の紹介

うさコメント!
2007年、小西真奈美さん主演で放映されたドラマ「きらきら研修医」のモデルとなった織田うさこ氏が、身の回りの医師について、患者との関わりについて、医療現場で起こるさまざまな出来事について、独自の視点で語ります。

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