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「統合失調症がやってきた」を読んで(その2)
せのびぃ、松本ハウスさんの講演を聞いてさらに感動

2014/10/29

 前回、芸人コンビ「松本ハウス」のハウス加賀谷さん、松本キックさんの『統合失調症がやってきた』について紹介しました。本で読んだ内容も含め、生の声を聞いてみたいと思って参加した松本ハウスの講演会で、せのびぃはさらに感動することになります。

各地の講演会でひっぱりだこ――その意味も納得
 専門家のくせに何を言うのかと言われそうですが、松本キックさんの対応がすごすぎるんです。間合い、選んだ言葉、相方への配慮、全てにおいてサポーティブなんです。

 とある高名な精神分析家が落語と精神分析について語っている書籍を最近購入しましたが、精神科の医療を語る本を読んでも得られないのは「その場の空気感」だったり、「コンマ数秒の間」だったりするのかなぁと感じています。

 当事者、家族、支援者、精神科スタッフらが集うフロアから「お二人にとっての自分を一文字で表現してください」という質問が寄せられたとき、答えに詰まってしまったハウス加賀谷さんを横目に見て、すかさず松本キックさんはこう答えました。「『想』ですね。相手の心を想うこと、と書きます」。

 一方、常に松本キックさんが気をつけていることは「先回りをしないこと」でもあるそうです。失敗しないようになんでもかんでもお膳立てして、花を愛でるように育てるのは、統合失調症の当事者にとっては良くないことなんだよ、とせのびぃは先日上級医から習ったばかりです。まさにその姿勢ではありませんか。

 松本キックさんはハウス加賀谷さんと長年時間を共有するうちに、精神疾患と向き合うためのこうした基本的姿勢を体得されたのでしょうか。「ワザ」としてこうした姿勢をつくっていこうとしている精神科医の卵より、よっぽど高いレベルでそれが身についている松本キックさんを見て、心の底から感動すると同時に自分が挑もうとしている精神科の深さに少し怖気づいてしまいました…。

傲慢になりかけた自分に気付く
 松本キックさんが時間を稼いだ間にハウス加賀谷さんがひねり出した答えは「思いやる」という言葉でした。「一文字じゃないですけど」と笑いを取りながら、真剣にその意図について語るハウス加賀谷さんはもちろん、それを見守る松本キックさんの暖かさたるや筆舌に尽くしがたいものがありました。

 続いて、「統合失調症になって良かったことは何ですか」という質問に対し、ハウス加賀谷さんは「みなさんと会えたこと」と答えました。そして、「昔は負の力で生きていたが、今は生の力で生きようと思えたこと。売れたことで傲慢になっていたかもしれない。そんな自分を見つめ直せたこと、ですかね?」と続けました。

 精神科医は日々自分自身のリカバリーをしている、というのが、せのびぃの指導医たちが口をそろえて教えてくれることです。自分の長所や欠点に目を向けて、それを受容してメタ認知できると一回り大きくなれるということです。

 医者になって、確かに何人かを救ったかもしれないですが、本質的な意味で自分はほとんど何もやれていないのではないか。少し臨床がわかるようになってきたことで傲慢になっていなかったか、とものすごく反省しました。ちょうど、自分の担当患者さんの治療が思い通りにならないことが多かった時期だったので、周りのスタッフや当事者、家族から謙虚に学びたいと思いました。

 今も治療がうまくいっているケースばかりを担当しているわけでは決してないですが、一人ひとりを大切に診ている。そんな自信は以前より持てている気がします。おかげさまで。

著者プロフィール

毎日せのびぃ●市中病院での初期研修後、出身大学病院を経て、再度初期研修病院に戻った精神科医の卵。外見や語り口は穏やかで気さくな好青年。だが、胸の内には数々の野望が渦巻いている。今はそれらを封印し、高みを目指して修行に励む日々。

連載の紹介

日々是たぶん好日ナリ
毎日せのびぃ”が臨床の狭間で繰り出すつぶやきログ。生活の大部分を占める医療ネタのほか、将来のこと、趣味のこと、世間話など、フリーハンドで書いていきます。

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