ついこの間まで、当院のERに救命救急士が実習に来ていました。学生時代に1日だけ救急車同乗実習を経験したことがはありますが、医療現場で働くようになってからは初めてです。非常に貴重な機会でした。一緒に仕事するうちにだんだん仲良くなり、普段はあまり聞けないお話や本音を教えてもらうことができました。
そもそも私は誤解していたのですが、救急隊員には資格による区別があります。「救急技術員」の資格を持っている一般の救急隊員がいて、その上に「救急救命士」がいます。多くの場合、隊長(+α)は救急救命士の資格を持っていて、3人一組でチームを作っているとのことです。全員が「救急救命士」ということではないんですね…。
救急救命士になるためには主に2つのコースがあるそうです。
消防士からスタートして一般救急隊員になり、5年もしくは2000時間の実務経験を積んでから、辞令により入所して養成される“現場生え抜き”コースと、自衛隊・大学・専門学校などの救急救命士養成課程で勉強して、卒業時に資格をもらうコースだそうです。
学校で資格をとった救急救命士は、ときに現場生え抜きの救急救命士から、「現場を知らない」と揶揄されることもあるそうです。自分の身を振り返ってみると、私たち医師も、国家試験に合格するといきなり医師としてほとんどの医業が行えてしまうわけで、同じことですよね。初めは足手まといですが、すぐに慣れるように頑張っているそうです。ここも同じですね。
さて、救急救命士と一般の救急隊の最大の違いは、特定行為が許されているかどうかです。特定行為とは、例えばAEDを用いた除細動や、気道確保(ラリンジアルマスクや食道閉鎖式エアウェイ)、ルート確保(乳酸リンゲルのみ)、アドレナリン投与などです。これら特定行為を行う際にはオンラインメディカルコントロールにより、医師の具体的な指示を受けなければなりません。
現在はCPA(心肺停止)の患者のみに特定行為が認められているそうですが、ルート確保などについては、「もっと対象者を広げた方が良い」という意見もあります。実際、実証研究を目的に、CPAではない患者の血糖値測定・ブドウ糖投与・β刺激薬投与など、低血糖や喘息への初期治療と思われる項目が、拡大の対象として検討されているそうです。
それ以外にも、例えば大量の出血が続いている外傷患者の場合は、できればその場でルートがとれたら嬉しいのですが、逆に、そのために搬送に遅れが出る可能性はもちろんあります。また、救急救命士個人に現場での判断を許すとなれば、医師法との絡みで医業独占に関する制限もありそうですし、法的にもいろいろと面倒なことになるのでしょうか…悩ましいです。
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著者プロフィール
毎日せのびぃ●市中病院での初期研修後、出身大学病院を経て、再度初期研修病院に戻った精神科医の卵。外見や語り口は穏やかで気さくな好青年。だが、胸の内には数々の野望が渦巻いている。今はそれらを封印し、高みを目指して修行に励む日々。

連載の紹介
日々是たぶん好日ナリ
毎日せのびぃ”が臨床の狭間で繰り出すつぶやきログ。生活の大部分を占める医療ネタのほか、将来のこと、趣味のこと、世間話など、フリーハンドで書いていきます。
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