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なぜ医療従事者はわがままだと言われるのか

2013/05/24

 私が通う慶応ビジネススクールの教育の特徴として、「ケースメソッド」を採用している点が挙げられる。ケースメソッドとは実際の企業やプロジェクトを分析した生の資料を用いたディスカッション形式の授業のこと。ビジネスの疑似体験を通じて意思決定能力を鍛えられるとして近年、注目を集めている。

 だが、医療従事者はもともと症例検討やケースカンファレンスという形で、同様の学習法を取り入れている。ケースメソッドは、病歴や症状を時間経過を追いながら評価分析していく臨床現場の感覚にとても近く、医療従事者である私にとっては非常に馴染みやすいものであった。

 ケースで取り上げられる企業や組織、あるいはその切り口は“何でもあり”だ。例えばパナソニックという会社を取り上げるとしても、「VHSビデオの製品展開の評価」という企業戦略に関するものから、組織マネジメントに着目した「事業部制という特徴的な社内管理の分析」、財務の教材としての「三洋電機の買収に関わる資金面のリスク」など、テーマはさまざまな設定ができる。授業で扱った変わったテーマとしては、「日露戦争直前の日本帝国陸軍の意思決定」や、「世紀の大発明であるCTを発明した英Thorn EMI社が市場競争に敗北していく経過」などがあり、いずれも印象深く記憶に残っている。

 ケースメソッドの授業には、私たちの働く「病院」や「医療従事者」も特徴的な題材として、しばしば登場する。何が特徴的なのかというと(不名誉なことではあるのだが)、「経営者にとって医療従事者は非常に扱いにくい、わがままな人種」であり、「医療従事者たちを1つの組織としてまとめあげるのは困難」ということらしい。当然ながら(?)、私たち医療従事者自身にそういった自覚は薄いのだが、世間一般にはそう認識されているようだ。

 例えば、業務の改善活動を考えてみよう。一般の企業では、上司だけでなく部下や同僚も評価を行う360度評価制度を導入して人材の生産性を上げたり、部署ごとに独立採算制を取り入れて意思決定の迅速化やコストの透明化を行ったりする。しかしながら、これらを病院で導入しようとすると、途端に現場から散々強い反発が起こる。ひどい場合には病院を辞める人も出てしまう。

 確かによくよく振り返ってみると、「ただでさえ雑用が多くてうんざりしているのに、これ以上余計な仕事を増やさないでほしい」「自由に診療だけに専念させてほしい」というのが医療従事者の内なる声であろう。そして状況が思い通りにいかないと「そんな面倒なことをやらされるくらいなら、もっと自由な病院へ行ってしまいたい」と考える人も出てくる。
 
 実際、医療業界は人材の流動性が非常に高いことでも知られている。日本の多くの病院で毎年、年度をまたぐ際にかなりの人数のスタッフの出入りを経験しているはずだ。私の知るある県立病院では、年度末に医師20人中18人が入れ替わるというようなこともあったし、自分が務めていた病院でも2~3年後に再訪すると医師看護師含めてほとんど知らない人ばかりになっていたこともある。

著者プロフィール

内藤 祥(慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程)●ないとう しょう氏1978年 神奈川県生まれ。2005年北里大卒。沖縄県立中部病院で4年間の研修の後、2009年より2012年まで西表西部診療所。2012年より現職。西表島勤務中には「離島医師たちのゆいまーる日記」を執筆していた。

連載の紹介

「目指せMBA!」
離島の「一人医師」として従事してきた内藤氏は「地域医療を守るためにも経営学的な視点が必要」と痛感したことから、ビジネススクールに進学。臨床医が、一般企業の会社員と机を並べながらそこで感じたことをつづっていきます。

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