Cadetto.jpのロゴ画像

医学は生理学から。経営は会計学から

2013/02/27

 数年前のことになるが、久しぶりに中学校の同窓会があった。日頃、医療者同士としか話をする機会がない私としては、いわゆる“企業人”の旧友たちの話を興味深く聞き入っていた。そんな中、起業した友人が「今年の年商は1億円を超えた」と言ったことに「すごいお金持ちになったものだ」と皆で随分驚いた記憶がある。しかし後に、当時自分が切り盛りしていた離島診療所の決算書を見る機会があり、自分自身も年商1億円程度の稼ぎがあることを初めて知った。では私はお金持ちだったか?

 もちろん私は医師とはいえ沖縄県の公務員の身であったため、そんな高額給料をもらっているはずもない。考えてみると、テレビのバラエティ番組を見ていると「年商」「収益」「収入」「利益」「年収」を区別していないかのような表現も目立つ。日本ではこういった会計学の用語が一般人はもとより、メディアにおいてさえ、あいまいな意味合いのまま使い回されている。それに伴い、言葉の解釈さえも異なってくるようだ。正直なところ、特に私たち医療者はこの手の用語に極めて疎く、“社会人”である友人との会話で的外れなことを言ってしまい、ひどく恥をかいたことも少なくない。

 ちなみに、「年商」とはその会社が扱っている金額の規模を表しているだけで、利益自体を示しているわけでは全くない。年商が1億円でも、赤字で給与が十分に出ていない可能性もあるわけだ。冒頭の“お金持ち”であるはずの友人も「最近結婚したが、新婚旅行に行くお金はない」と話していたことを付記しておこう。

 こういった背景もあり、私がビジネススクールで学び始めて、最初に“目から鱗が落ちた”経験をしたのがこの「会計学」だった。会計学とは、ごく簡単に言えば、企業や会社(もちろん病院や診療所も含む)が活動した内容を金銭的な数字で可視化する学問である。慣れた業界用語で無理矢理表現すると、「後ろ向きのデータ分析(Retrospective Data Analysis)」になるのだろうか。

 例えば会社の資産や負債、売上高、利益などが記された「財務諸表」は、「組織の自己紹介文」とまで言われるほど多くの情報が組み込まれた、極めて有用なデータである。もちろん数字には現れない、組織の技術や人材といった無形の資産が重要なのは否定しないが、事実として会計の数字を見るだけでその組織の活動や意図を読める。経営が上手くいっているのか、あるいは苦しんでいるのか。また、企業としてどんな特徴があり、何を大事にしているのか、などまで見通せてしまうことも少なくない。ズブの素人が会計学を一から学んでも、世の中の経済の仕組みや企業組織の骨組み、あるいはその業界特有のカラクリといったものがうっすらと見えてきてしまうのだから、本当に面白い。

著者プロフィール

内藤 祥(慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程)●ないとう しょう氏1978年 神奈川県生まれ。2005年北里大卒。沖縄県立中部病院で4年間の研修の後、2009年より2012年まで西表西部診療所。2012年より現職。西表島勤務中には「離島医師たちのゆいまーる日記」を執筆していた。

連載の紹介

「目指せMBA!」
離島の「一人医師」として従事してきた内藤氏は「地域医療を守るためにも経営学的な視点が必要」と痛感したことから、ビジネススクールに進学。臨床医が、一般企業の会社員と机を並べながらそこで感じたことをつづっていきます。

この連載のバックナンバー

この記事を読んでいる人におすすめ