私が埼玉県の救命救急センターに勤めていた15年前、イタリア製のかっこいいスポーツカーを愛車にしている友人医師がいた。赤い色は車高の低いスポーツカーに似合っていた。エンジンの音は、国産車では聞いたことがない高音の金属音だったので、その姿が見えなくてもスポーツカーが近づいてくることが誰にも分かった。長いボンネットの先には跳ね馬のエンブレムが目立つ。
スポーツカーのレースの最高峰にフォーミュラ・ワン(F1)がある。フェラーリの強さの秘密は、車の性能がずば抜けていること、ドライバーが優れていること。そしてほかのチームを圧倒しているのが、ピットインした車のタイヤを数秒で4輪とも交換できることだった。リーダーの合図で、十数人の赤いつなぎの男たちが、車の前後左右から車に近づき、すり減ったタイヤを新品のタイヤに交換する。瞬きする間もなく車はレースレーンに金属音を排気管から鳴らしながら復帰する。ピットでの1秒を短縮するために、赤いチーム員は何カ月も何年も訓練する──。
救急から直電でドクターカー要請
1月の寒い夜。22時にベッドに入った70歳代の女性が22時30分、トイレに行くため起き上がろうとしたところ、腰が抜けたようになって転倒した。左半身に力が入らず、ろれつが回らない。右足は動いたので、床に右足踵を何度も打ち付けて隣室の夫に合図をしたが、気づいてもらえなかった。
物音を聞きつけて2階にいた娘が訪室したときは、「体がタコのようになって足と手がぐにゃぐにゃだった」と女性は後に振り返る。娘はタコになった母親を見て驚いた。母親の訴えは全く聞き取れなかった。
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著者プロフィール
今 明秀(八戸市立市民病院院長)●こん あきひで氏。1983年自治医科大学卒業。へき地診療を5年、外科を8年、外傷救急を6年修練。青森県ドクターヘリ スタッフブログ「劇的救命」(http://doctorheli.blog97.fc2.com/)を更新中。

連載の紹介
救急いばら道
八戸市立市民病院の院長であり、救命救急センター所長、臨床研修センター所長でもある今明秀氏が、ドクターヘリやドクターカーを擁する同病院救命救急センターでスタッフと日夜奮闘する様子を、克明にお伝えします。
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